第5話
放課後、武田さんとショッピングモールへ買い物に行った。シャー芯を切らしそうだったのと、新しい問題集を買いに行きたったからだ。武田さんも洋服を買いたいって言ってたし、タイミング的には丁度良かった。
今持っている問題集はあらかた何周かしたし、そろそろ別のを買っておきたかったところだ。
それにしても……。
「うーんと、何買おうかなー。可愛い服が買いたいな〜」
とか言ってる、気の抜けたやつがいるお陰で、他人から制服でデートしてるやつを見てるような、暖かい視線を送られてしまった。
この人たちに悪意はないんだろうけど、ここまで露骨に視線を感じると嫌悪感が湧いてくる。
「武田さん。俺は本屋行くから、その間に行ってきていいよ」
「あ……。うん! 分かった」
このままでいてもあまりいい気はしないので、別行動することにした。
妙に元気な返事だな。
「じゃあ、買い物終わったら連絡しよう。外の噴水のとこで良い?」
「いいよー……はぁ」
早々に武田さんと分かれた。そして、本屋にダッシュ。大きな本の文字発見、到着。
さて、取り敢えず本屋に着いたし、まずは適当にコミックを……じゃない。問題集買わないと。
いやー、油断ならない。少しでも麦わら帽子の少年が見えると、自然と引き込まれるからな。誘惑に負けるなよ、俺。
……って思ってた時もありました。
ダメだったよ。やっぱり、漫画って強い。
問題集は、もちろん買い物カゴの中に入ってる。でも、どれが良いとかは全然区別がつかないし、この問題集が果たしてどれだけ役に立ってくれるかは分からない。
結果、それっぽいのを表紙で選んで、直ぐにコミックの棚へ移動して、漫画を2冊入れた。
……時には息抜きも大事なんだ。
とはいえ、この行為に罪悪感がないでもない。最後にもう一度、問題集の棚を見に行った。
英語苦手だし、見ておくか……。1冊づつ丁寧に見ていくと、偶然とある問題集を見つけた。
「これって……」
確かこの問題集って、武田さんが持ってたような気がする。
手に取って、ペラペラと流し読みをしてみた。この表紙は見た事があるし、多分間違いない。
一般入試にも対応できるようにと武田さんが持ってた問題集だったと思う。
……これも、買っておくか。
俺はそっと、カゴの中に問題集を入れた。
買い物も終わったので、俺はスマホで武田さんに電話を掛けた。
「もしもし」
『あ、買い物終わったんだ。じゃあ、先に噴水の前で待ってて。私もすぐ行くから』
「分かった」
俺、結構時間使ったんだけど、まだ買い物終わってなかったのか。
そんじゃ、アイスでも買ってゆっくりしてるかな。いや、この時期にそれは凍えるし、やめておこう。
噴水の前で待つこと10分、ようやく現れた武田さんは、両手に紙袋を持っていた。
「ごめん。ちょっと時間掛かっちゃった」
「いや、そんなに待ってないよ」
ゲームやってたら10分って早いもんだよ。
「ほい」
俺はまだ荷物には余裕があったし、武田さんの荷物を持つことにした。
両手を武田さんに出して、紙袋を渡してもらおうと催促した。
「……へ?」
だが、武田さんは一向に荷物を渡そうとしなかった。かといって、断る素振りもなく、ただ何がしたいのか分からないみたいな表情で首をこてんと傾けた。
そして、何故だか分からないが、武田さんは何やら考えたあと、少しだけ顔を赤らめた。
「? どうした?」
と言うと、今度はこいつは本気なのか? みたいな驚いた顔をした。
「え? ……あ、うん。その……うーんと、じゃあ……失礼します」
じゃあ、失礼します?
一体何を言ってるのか全く分からない。
俺もなんていうか、訳分からんくなった。
ああ、そっか。単純に荷物持つよって言えばよかったのか。
「武田さん、荷物……って!?」
――ぽふっ。
突然包まれるようにして感じた、柔らかな温もり。さっきまで感じていた冬の冷たい風が、何故か心地よく感じた。
やばい、顔超熱い。
俺の身体にくっつくようにして、武田さんが抱きついていた。何? 今から柔道でもやるの? それともプロレス?
いやいや、こんな甘々な格闘技があってたまるか!!
「あの……武田さん?」
ゆっくり顔を上げて、俺の目を見つめてきた。
近い近い近い! 顔近いって顔!
え、マジどうすんのこれ。ねえどうすればいいよ?
「大輔……」
はい! 大輔です! 早速ですが踊りたくなってきました! 大輔だけに!
じゃない、落ち着け落ち着け。深呼吸だ、吸って、吐くうぅぅぅゥ!!
おーけーおーけー。俺はまだ正気だ。そう、ゆっくり誤解を解けばいいんだ。そうだよな?
「えっと……。武田さん、荷物」
「え?」
「その、荷物。持とうと思って……」
そういうと、武田さんの顔がみるみるうちに真っ赤になり。そろ〜っと俺から離れた。
oh(´>△<`)... まったく、心臓の高鳴りが止まないぜ。
「は、はい……」
武田さんは、荷物を片方差し出してきた。
そして、俺がそれを受け取ると、武田さんは紙袋でさっと顔を隠した。
「見ないで……」
「どうしたんだよ」
「もうやだ。恥ずかしい……」
と言って、そのまま歩き出した。前見えてるの? それ。
にしても、さっきのってどういうことだったんだろう。もし仮にだ、百歩譲って俺のジェスチャーが『 ハグして』だったとしよう。少し考えてたにしろ、それでも人前でそれを実行するって、一体どんな気持ちなんだろう。
そんなことできるんだったら、もしかして……なんて考えてしまう。いや、でもそんなことは考えすぎか。
今まで、全く素振りを見せてこなかったのに、急にそんなことをしてくるはずがない。
多分、イタズラでもしてやろうと思ってたんだ。それで、よく考えてみたら自爆だったとか、そんなところだろう。
「うう、もうやだ。泣きたい」
「……はぁ」
そんなことはともかく、顔を隠してくれたのは助かった。
耳めっちゃ熱いし、俺も多分顔真っ赤になってるからだ。
でも、なんか歩き方がフラフラと危なっかしいから、そろそろ顔は出して欲しいな。
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