「優良物件ありますけど」

 元彼のことを本当に好きだったかと問われると自信がない。

 告白も向こうからだったし、私は笑うだけでよかった。

 彼はピンクや白の服を褒めたし、髪を巻くと喜んだ。買ってくれるものはふわふわだったりキラキラだったり。

 始めはそれで満足していた。の、だけれど。

 私の人格は、置き去りにされていた。


 結局は長く続かなかった。いや、続けられなかった。私が別れを切り出したのだ。

 私は酷い女かもしれない。


「というわけなのだけど、なんでそんな露骨につまらなさそうな顔をするかな」

「だって、つまんねーもん」

「愚痴くらいきいてよ」


 カウンター席でいい感じの熱燗をぐいっと煽ると、隣でつまみをつついている彼が「女の飲み方じゃねぇ」とぼそりと言った。

 うるさい、と一喝しお猪口をつき出す。すると至極面倒臭そうに酌をする。

 この男は大学時代の知り合いで、ちょくちょく連絡を取り合っている仲である。

 元彼と別れた帰りに道端で遭遇したため、そこらへんの居酒屋に引きずり込んだ。

 とりあえず話を聞いてくれれば誰でもよかった。彼の性格の悪さとかそういうこともどうでもよかった。

 だって今の私のほうがタチが悪い。


 元彼はイカをつまみながら熱燗を煽る私なんて想像つかないだろう。

 過ごした時間が、思い出が、全て嘘に思える。


「私のこと何にも知らずに、一体どこが好きで告白してきたんだろ」

「大体お前も悪いんじゃねーの」


 その言葉に手酌を止める。


「見せなかったんだろうが、お前が、自分を」

「…………」

「それで分かってないなんて言われてもな」


 酷い女だな? とサディスティックな顔で言う彼に返す言葉がない。

 確かにその女は酷い女だ。そしてそれは私だ。

 思いがけず痛いところを正論で責められたため、続きの言葉が出てこない。


「だって………雰囲気で付き合った彼女が実は酒豪で性格おっさんじみてるなんて、向こうがかわいそうじゃない」

「結局フってんだから同じだろ。しかも理由鬼畜」

「んもういいわよ」


 ええもう私が悪いんです。少しだけ回ってきた頭を冷やそうと水を飲む。

 あのさぁと彼が正面を見ながら口を開いた。


「お前はお前のことよく分かってるやつじゃないとダメなんだよ」

「は?」


「俺なら、ピンク着ろとか酒飲むなとか言わないけど」


 一瞬耳を疑った。珍しく酔って、脳がおかしくなったのかと。

 しかし彼の怪しげな笑みに今のは現実だと理解させられる。


「どうする?」


 それは悪魔の囁きに聞こえた。

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