記憶の中の青と
私たちはヒトとは違う時間で生きている。
私たちはヒトとは違う運命の中にいる。
「最近忙しいの?」
事務所内の地上に繋がる扉へ向かう途中、一服していた彼に捕まった。
黒いシャツに黒いズボン、黒ぶち眼鏡に青いネクタイ。相変わらずの出で立ちの彼はあくびをしてソファに座っている。
なんでこんなに暇そうなんだ。仕事代われ。
言葉に出さずに悪態をつくと、心を読まれたかのように鼻で笑われた。
「そういうあんたは暇そうだね」
「おれも忙しいよ? 最近人間多いし」
「もう、ソファでくつろいでるヒトの台詞じゃないよ」
この世界は、つまり、地上の影のような世界。全体的に暗くて、青い。造りは地上と何ら変わりはない。建物もあるし、植物や、動物もいる。ただ色は全て青みを帯びている。
私たちの事務所の壁の色も、彼の座るソファも、吐き出す煙も青だ。白と黒と青で構成される世界。それがここ、私たちの生きる世界である。
私は気が付いたらここにいて、仲間と一緒に「仕事」をして生活している。よくわからない漠然とした世界の中でふわふわ生きている。
「もう行かなきゃ。あんまりぐうたらしてたら所長に仕事押し付けられるよ」
「ご忠告どうも」
本当にかわいくないやつ。事務所を出ようとすると、彼は思い出したように口を開く。
「あのさ、あまり一人の人間に入れ込まないほうがいいよ」
ドアノブにかけた手が思わず止まった。随分意味深なことを言ってくれるものだ。彼のこういうところは本当に、好きになれない。
「どういう意味」
「言葉のままだけど」
「あそ、心に留めておくわ」
「うん。あとそのワンピース似合わない」
最後の言葉は無視。彼が笑う声を背にして、事務所を出た。
鉄製の階段を上って屋上に出ると、見えるのは太陽のない世界と、青い大きな扉。
ポケットから鍵を取り出して、扉に差す。この扉が地上と繋がっている。
あまり一人の人間に入れ込まないほうがいいよ。
「分かってるっつーの」
これは「仕事」だ。別に、あの子に会いに行くわけじゃない。私に回ってきた「仕事」なんだから。 だから別に、あの子に言われたから、白いワンピースを着ていくとか、そういうんじゃない。ただ、私は…………。
「馬鹿みたい」
風になびくワンピースのすそを握りしめて、扉を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます