第22話 どうぞ……

 紗綾の言葉に、自然と凛の視線が胸にいってしまう。



「? もしかして、俺のシャツですか?」



 紗綾の細い首には襟があり、ボタンがついているのが男物のシャツ。

 肩幅が合っていないからか、シャツの肩部分が腕にまでいっていて、袖の長さが余ってしまっている。

 生地が薄いというのもあり、シャツの上から黒いブラがはっきりと透けてしまっていた。



「前にね、相手の部屋着とか、シャツを着てあげると喜ばれるって雑誌でみたの……。

 もしかして、あんまりうれしくなかった?」


「…………」



 紗綾の言葉に凛はうれしい、うれしくないというのがよく理解できていなかった。

 凛の視線は、紗綾のシャツ姿に奪われてしまっていた。

 反応がない凛を見て、紗綾が不安げに問いかける。



「凛? もしかして、シャツじゃないほうがよかった?

 それとも、あの記事は間違いだった……とか?」


「そんなこと、ないです……たまには、そういうのもいいと思います」


「そ、そう? 凛がそう言ってくれるなら、よかった……」



 凛が言ったことは嘘ではないが、凛は全然違うことを考えてしまっていた。

 サイズが合っていないせいで、シャツがダボついている。

 長い袖の部分が握り込まれていて、なんだかそれが可愛く感じる。

 どうしてそれが可愛く感じるのかがわからない。

 そして透けて見える下着……。やけにエッチだと、凛は感じていた。



「そんなにオッパイが気になっちゃうなら、触ってみても……いいんだよ?」



 紗綾がそんな姿で、恥じらいながら胸を触っていいと言っている。

 そんなことを言われた凛に、抗うことなどできなかった。

 そもそも、そんな考え自体持ってはいなかったのだが。



「じゃ、じゃぁ、触らせてもらいますね?」


「う、うん。どうぞ――」



 紗綾は目を瞑って俯き、両手が肩の辺りでシャツを握りしめる。

 凛が下の方から触ると、紗綾が抑えた声を出した。



「ん……」



 凛は女の子の胸を触るのは初めてだったので、紗綾の声に一瞬手を離してしまう。



「そんなにビクビクしないでも、大丈夫だから」



 そう言うと紗綾が優しく凛の手を取って、そっと自分の胸に誘導した。

 さっき凛が触ったときよりも手が押し付けられ、そのやわらかさが凛に伝わってくる。

 凛の手によってさっきとは形が変わってしまっているが、それでもやわらかさは変わらない。



「ね? 大丈夫だから、やさしく、ちゃんと触って?」


「――――」



 さっきよりも今度はしっかりと触り、凛はその感触を確かめた。



「あっ――」



 今度は紗綾の声が漏れても離さない。



「ねぇ、凛? 触ってもいいから、お姉さんにキスして?」



 紗綾が凛の首に腕を回して、唇を重ねてきた。

 言葉では凛にお願いしながら、ほぼ同時に紗綾がしているような状況。

 だが時折ビクッと紗綾は身体が反応して、キスが一瞬止まっていた。



「凛? 初めて女の子を胸を触った感想は?」


「すごくやわらかくて――――もう少しだけ……いいですか?」


「もぅ、しょうがないなぁ。でも、他の女の子にこんなことしちゃダメよ?」



 この日、凛は初めて女子の胸を触り、一時間程止めることができなかった。




「凛? 凛? 起きて?」


「――――」


「凛? 朝よ?」



 紗綾の声で目が覚めると、横になっている紗綾の顔が凛のすぐ近くにあった。



「おはようございます……」



 紗綾はまだ凛のシャツを着ていて、下着の色がシャツを通している。

 サイズが合っていないシャツは余計な空間を作ってしまい、紗綾の胸元が大きく見えてしまっていた。

 横になっているのもあり、深い渓谷が作られている。

 まだ半分寝呆けていた凛は、その渓谷に顔を埋めてしまった。



「ちょ、ちょっと、凛? ダメよ。もう起きないと、遅刻しちゃう。ね? 起きて」



 優しく凛の頭を撫でながら、紗綾は寝呆けていた凛を起こした。



「起きた?」


「はい、起きました」


「朝ご飯できてるから、食べよ」



 二人で朝ご飯を食べる間も、紗綾は凛のシャツ一枚という姿。

 シャツの裾からは長い脚が伸びていて、下は下着だけのようだった。

 凛は意識して気にしないようにし、食事を済ませて準備を進めた。

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