第23話 凛だけなの
「凛? なんかさっきから変じゃない?」
学校へと向かう途中、凛の様子を気にして紗綾が訊いた。
「そうですか? どこか変ですか?」
「なんか、私を見ないようにしてない? 話すときはちゃんと見てくれるのに、なんかいつもと違う感じがするの」
紗綾の感じていることは、凛が意識的にしていることだった。
朝の紗綾の姿、実際に紗綾の胸に触れてしまった感触。
それらが凛の中に残ってしまっていて、紗綾のことを意識させてしまっていた。
だがそれも無理からぬことだろう。
凛は高校二年生という思春期、もしくは思春期を終えたばかりという時期だ。
そんな凛にとって昨日の出来事や、朝のような紗綾の姿は刺激的だった。
意識しないことの方が難しい。
電車を降りて駅から学校へ向かうまで、紗綾が腕を組んできた。
もうこういうこともお決まりとなりつつあること。
「凛? もしかして、緊張してるの?」
「え? どうしてですか?」
「だって、初めて腕組んだときみたいな感じだよ?」
紗綾が不思議そうな顔で凛を見るが、言われるまでそんなことに気づいてもいなかった凛には答えようがなかった。
別にわざとやっているわけでもないのだろう。
問いかける紗綾は、凛の腕をぎゅっとした。
そして、ハッとしたような顔をする。
「もしかして、私のこと意識してる?」
「――~~」
その答えは、凛の顔を見るだけで理解できるものだった。
今までは照れや恥ずかしさという感じの反応が殆どだったのが、今までと変わっていた。
「とうとうお姉さんの魅力にヤラれちゃったかな?」
「…………」
そういう部分があるのも確かなので、凛は否定することもできない。
いつもなら紗綾がさらに追撃するような状況だったが、紗綾はそれをしなかった。
なにも言わず、ただうれしそうに凛の腕を取って学校まで歩く。
「それじゃ、お昼休みに行くね」
学校の階段での別れ際、紗綾がウィンクをして階段を登っていった。
華奢な肩幅、高い位置にあるウェストからチェックのスカートがはためく。
スカートから伸びる長い脚は、今日は黒いニーハイソックスを履いている。
それがスカートとソックスの間に少しだけ見える太ももを際立たせていた。
お昼になると、朝の宣言通りに紗綾がやってくる。
昨日と同じように空いている席を借りて、紗綾が凛の隣に座った。
そして凛のお弁当箱に入っていた卵焼きをヒョイッと取り、パクっとしてしまう。
「え? 紗綾、それ俺の……」
楽しそうな笑顔をみせた紗綾は、自分のお弁当箱に入っていた卵焼きをお箸で摘んだ。
「私が凛の卵焼き食べちゃったから、私のを食べさせてあげる」
身体を少し寄せて、紗綾が卵焼きを差し出してくる。
凛に向かってくるのは卵焼きだけではなく、クラスの視線も集まっていた。
その卵焼きを食べさせてもらうのか? というような興味の視線と、まさか女の子にここまでさせて拒否なんてするつもりか? というような圧力のある視線。
凛には、その卵焼きを食べさせてもらうという以外の選択肢はなかった。
そして凛が卵焼きを食べると、紗綾がうれしそうな顔をみせる。
それを見ていた一人の男子が、自分のお弁当箱を持って特攻した。
「な、仲里先輩! お、俺にもあ~んしてください!」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
この言葉には凛、紗綾、そして他のクラスメイトも意表を突かれたのか静寂が広がった。
だがその男子の顔は、真剣そのもの。
決して冗談ではないということが顔つきから察せられた。
しかし……。
「私があ~んしてあげたいのは一人だけ。凛だけなの」
この紗綾の言葉に、クラスの女子たちのテンションが最高潮になった。
一気に黄色い声と、ピンクな言葉がクラス中に広がった。
そんな意外なお弁当の時間が終わると、凛と紗綾のところに別の男子が来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます