第6話 オン・ザ・ベッド

 人工的な光が消え、薄っすらとお互いを確認できるくらいの明るさ。

 凛は背中を仲里さんに向けるのは失礼かと考えたが、向かい合うこともできない。

 その結果、天井を見つめていた。



「凛くん?」


「はい」


「一人暮らしだとずっと静かだから、なんかこういうのいいね?」


「それはそうかもしれないですね」



 お互い一人暮らしだから、共感できる部分だった。



「凛くん、そんなに端っこにいると落っこちちゃうよ?」


「いや、でも、シングルベッドなので、あまりそっちに寄っちゃうと……」



 凛が端に寄っている理由を言うと、仲里さんが身体を寄せた。

 凛の左腕を胸に抱いて、脚を絡ませる。



「仲里さん、あんまりくっつかないほうがいいと思います」


「ねぇ? いつまで仲里さんなの? そろそろ紗綾って呼んでもいいと思うの。

 ね? 仲里さんは禁止ね」



 脚にはすべすべな感触。左腕はやわらかな感触が伝わっていた。



「試しに呼んでみて?」


「――、さ、紗綾……さん」


「うん、よくできました」



 紗綾さんは言うと、顔まで凛の腕に寄せた。



「紗綾さんは、どうしてこんなにかまってくるんです?」


「ん~、凛くん私のこと知らなかったみたいだし。

 知ってからも変に変わることがなかったから、かな。

 だから興味が湧いちゃったみたい。一人暮らしでちょっと寂しかったのもあるかも。

 それに、凛くんの反応が可愛いからね」


「お、俺も男なんですから、あんまりからかわないでください」



 凛は注意をしたつもりではあったのだが、余計なことを言ってしまったことに気づいた。

 紗綾さんが凛を自分に向かせたのだが、その表情は楽しいものを見つけたというような顔をしている。

 アヒル口である唇の口角があがって、目が爛々としているように見える。



「なぁに? もしかして、お姉さんのこと意識しちゃってるの?」


「そ、それはそうですよ。紗綾さんはモデルをやっているくらい、き、綺麗で可愛いですし……」


「うん、うん。胸だって大っきいしね?」


「……そ、それは知りません」



 嘘だった。確かに正確にはわからないが、紗綾さんの胸が比較的大きいことはわかっていた。

 さっきよりも凛の腕に胸を押し付けて、紗綾さんがジッと凛を見る。



「胸、気になる?」


「…………」


「F」


「……?」


「Fカップだよ? ――あ、今見たでしょ?」



 つい視線がいってしまった凛は、紗綾さんに指摘されて急いで視線を外した。

 指摘されてから視線を外したところで、時すでに遅しなのだが。



「公式のプロフィールで公表してないから、他の人に言っちゃダメだゾ」


「は、はい。秘密にします」


「凛くんも女の子の身体に興味があるみたいで、お姉さんは安心しました。

 今日はゆっくり寝れそう。凛くん、おやすみ」


「お、おやすみなさい……」



 紗綾さんは寝付きがいいのか、一五分程すると寝息が聞こえ始めた。

 そんななか、逆に凛はなかなか寝付けない。


 今自分の部屋のベッドで、一緒に紗綾さんと寝ているという状況。

 突然遭遇した状況に、いろいろな感覚が追いつかない。


 昨日紗綾さんを助けたことは、凛の中でそんなに大きな出来事ではなかった。

 だがそれが切っ掛けとなっているのは間違いない。

 こういう小さなことが、大きな変化に繋がるのだろうか? と凛は考えていた。



 凛が目を覚ますと、まだ紗綾さんは寝息を立てていた。

 一晩経った今、紗綾さんのルームウェアは少し乱れてしまっていて、胸元から紺のブラが少し覗いている。

 凛は昨日言われたことを思い出し、すぐに胸元から視線を外した。

 まだ数時間前に言われたことであるのに、また同じことをしてしまったことを反省する。



「凛くん……おはよぉ~」



 紗綾が凛を抱き枕のように抱きついてくる。

 声の感じからして、まだ半分寝呆けているようだった。



「凛くぅ~ん」


「おはようございます」


「なんかいつもより眠れたみたい」


「そうなんですか? それならよかったですね」


「うん、なんか凛くんの匂い落ち着くの。私、もしかして匂いフェチとかだったりするのかな?」


「さぁ、どうなんでしょう?」



 なかなか凛を離そうとしない紗綾さんを剥がすように身体を起こし、凛は朝の準備を始めた。

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