第3話 書庫にたたずむ黒髪の美少女
「図書委員に立候補する者はいないのか~?」
「……じゃあ」
「おっ、加藤か。よし、じゃあ今年の図書委員は加藤博己君ということで。え~次……体育委員」
正直、そこまでなりたい訳ではなかったが、仕事内容が比較的マシなのと、大勢の前で何かをするような委員会だけは避けたかったというのが主な理由。じゃんけんにならなくてよかった。
「博己は何の委員会にしたんだっけ?」
「図書委員」
「あ~似合ってるね」
「……そういう美咲は何にしたんだよ」
「保健委員だよ」
「そっちも似合ってるじゃねーか。何ならベッドで昼寝してそうだ」
「そんなことしないもん!」
本を読むのはそれなりに好きだが、実際それほど多く図書室を利用したことはない。蔵書欲とでも言おうか、俺は本を読むという行為だけでなく、自分の本棚に収められていく様を実感するのが好きだった。だから読書自体は何ら変わらないものであっても、借りるのではなく、買いたい派なのだ。
それともう一つ、ここの図書室は広いわりに、なんだか暗く陰気で、生徒単位でみてもそれほど利用されているとは言えなかった。活字離れが問題視されている昨今、たとえ無料と言えど、環境が悪ければ、人は手を出さない。投資であれ読書であれ。
おまけにドアもなぜだか開けにくい。とかく施設としてはマイナスが重なっていた。
「博己君!?」
「えっ……」
突然見知らぬ先客に出くわし、心底驚いた上に名前までを呼ばれた。誰だコイツ。
「もしかして今年の図書委員のペアって博己君なの!?」
「そうだけど、ごめん、君、誰だっけ……?」
「やっと、やっとだわ!」
目の前にいる黒髪ロングの同級生?は何を言っているんだ。俺が無礼にも怪訝な顔を向け続けているのには何ら反応は無く、彼女は一人悦に入っていた。
「私の名前忘れちゃったのかな?」
「忘れるもの何も」
「フフフ、そうだよね。初めまして、私の名前は西園寺薫。博己君とは図書委員会でペアらしいよ」
「加藤博己です、よろしく」
「うん、よろしくね♡」
話してみればそこまで変な奴という訳でもなく、それなりに話があった。なんだか昔から仲が良かったような、それこそ幼馴染のようだった。それに何といってもこの容姿だ。俺のように斜に構えたひねくれ者でも思わずドキドキしてしまう。艶やかな黒髪は、陰鬱としたこの図書室と不思議と調和し、妖艶な雰囲気が漂っていた。雪女のような真っ白な肌とのコントラストが僕の心を引き寄せるには十分すぎる程だった。彼女の反応からみても、俺を嫌うことはおろか、どちらかと言えば好意的に見ているようだった。そういうこともあって、俺は何の気なしに図書委員に立候補したことを自画自賛していた。
「やっと、だね」
「何が?」
「ううん、何でもないよ」
ただ気になるのは、ところどころに若干のズレがあり、意味不明な単語が飛び出す事があることだ。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか?」
「時間が惜しい、もっとお話ししたいよ」
「でも、そろそろ鍵返さないと」
物寂しく陰気な図書室にも夕焼けはわずかに
「やっぱりもう少し話そうよ?」
「でも」
「ふ~ん、やっぱり駄目なんだ」
「駄目っていうか」
「ジョンバール分岐点って知ってる?」
もはや俺の意向など無視してとうとう話し出した。
「さぁ?」
「でも、私、この博己君のこと、今でも大好きなんだよね~♡」
突然の告白?に心を弾ませたが、やはり違和感がある。
「だ・か・ら、完璧な博己君になってもらうために、優秀なこの博己君に、私が教育してあげるね♡」
魅力的な微笑みは何故だか今は狂気的に見えた。まっすぐにこちらを見つめる大きな瞳にはただ俺しか映っていないかのようだった。
見覚えのない部屋に天井、そして照明。初めて入った部屋だと断言できた。窓も家具も何もない寂しい部屋。世に言うミニマリストでもなさそうだった。「空室」それ以外には表現できない。一体どうして俺はこんなところに。それも拘束されているのだろうか。記憶を辿ると、一番直近に感じるのは図書室で様子のおかしくなった西園寺薫に告白?を受けたものだ。
「おはよう博己君♡」
「やっぱりお前が」
「薫ちゃんとかそんな感じで呼んで欲しいな♡」
「一体どういう」
「同棲だよ」
「監禁の間違いじゃないのか」
「もぉ~お口が過ぎますね」
「お、おい!」
「言ったでしょ?教育だって。私好みの博己君になってね?」
「やめろ!やめてくれ!」
「暴れると注射変なところに刺しちゃうよ?」
「い、嫌だ!!!」
「いやいや期でちゅか~じっとしててくだちゃいね?」
謎の薬品が俺の体内に侵入する。情けなく俺は涙を流し、やめるよう懇願していた。少しずつくすりは俺のからだに作用していく。
「博己君、ママが分かりまちゅか~?」
まま?なにをいっているのだろうか。そもそもこのじょうきょうはなんなんだ。
だめだ、あたまがまわらない。
「博己君~ママでちゅよ~?」
「まま~」
「偉いね~は~い、ママだよ~♡」
END3 「
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