骸side

姫様が紹介した途端ジロッと姫様曰く可愛い顔を歪めランを見るチナ。

これは、ちと釘をささなきゃならんか。


幸いな事に、ランは狼達とじゃれ合っていて気づいていないしな。姫様も笑いながらそれ見てるし。


チナを引きずり少し姫様から離れる。


「離せったら!」


「チナ、忠告しとく。

ランに手を出す事は許さねぇから」


姫様が初めて損得無しに入れ込んでいる人間だからな


「何で!

骸は、姫様の半身だから皆渋々認めてるんだ!

だけど、彼奴は関係ないだろ!?

只の人間だ!」


チナの言い分もわからなくもない。

彼等は、何故か一目見た瞬間から異常な程姫様を愛す。

姫様の周りに居るものは誰だろうと気に入らないし

姫様が自分以外を見る事も考える事も本来なら許せない、認めたくないんだそうだ。


「それは、お前達の言い分だろ?

俺はお前達のご機嫌とりの為に生きてんじゃねーの。

姫様の笑顔を守る為、姫様の願いを叶える為にいんの。

今の姫様の望みは彼奴と共に世界を見て回る事。

彼奴にも綺麗な景色を見せる事。

だから、お前らがどう思ったとしても彼奴はこれから姫様と共にいんだよ」


姫様は、知らない

自分がどれほど求められているか

狂った愛を多くの者から押し付けられているか…。


「だけどっ!何で彼奴なんだよ!

僕だって姫様といたいのにっ!何で僕じゃないの…?何で…何で!」


目に大粒の涙を溜めて俺に叫ぶチナ。

そんなもん俺に言ってもしょうがないと思うんだが


「そんなもん俺が知る訳ないだろーよ。

だけど、一番最初に行く国で此処を選んだのは姫様だ。

久しぶりにチナに会いたいからって

友人をチナに紹介したいからって来たんだぞ。

それなのに、そんな不細工な泣き顔でずっと彼奴に敵意向けて一緒にいる時間潰すわけ?」


「っぅ…骸は分かってない…

僕達がどれだけ姫様がを求めてるか…っ

何で誰も姫様を名前で呼ばないと思ってるの…?

何で姫様だと…思ってる…?

どうしてっ…僕達があの国へ赤子の姫様をっ預けたと思ってるの…?」


「それは、お前達が戦争起こさない為だったんじゃねぇの?」


俺は生まれてからずっと姫様と共に居てその話し合いには参加してねぇもん


「っそんな事っ些細な事っ!

勝って姫様が手に入るならっ僕は喜んで戦うよ?

誰を殺しても誰を失ってもそれでも姫様を手に入れたいんだよ…僕達は。

だけど…姫様を手に入れた後は?

欲はドンドンエスカレートするに決まってる。

最初は手に入ればそれでいいと思っていても

もっと…もっとって我儘になる。

そうなれば…いつかは、姫様を僕達は自分達の手で殺してしまうっ…!

名前で呼ばないのも…国へ預けたのもっ

姫様を僕達から守る為のっ…線引きだ。」


泣きながら悲しげに姫様を見つめるチナ。


確かに欲は満たされればドンドンエスカレートしていく。

最初は話せれば、だったのが

次は側にいれれば、そうやってドンドンエスカレートしていくもの。


「今まで…誰も協定を破らなかったのはっ

側に居るのが…骸。君だけだったからだ。

姫様の半身であり姫様によって望まれ作られた君だから姫様の側にいる事を認められ国へも君に同行させた。

だけど、彼奴は違う。

骸、確かに僕だって彼奴が側にいるのは嫌だよ。

だけどね?姫様が望むなら…認めようって努力は出来るくらいの理性は…あるんだよ。

姫様が悲しむ顔なんて…僕見たくないもの。

でも、セッカやアヤメは違う。

特に…セッカはきっと姫様が望んだとかそんなの関係なしに彼を殺すよ」


眉を下げ俺に視線を移すチナ。

セッカ、ね。

確かに…彼奴はちと頭のネジ10本くらいどっかに落としてきてるくらいイカれてるからなぁ…


「だから、彼が居る事を知られない内に彼を手放すのが彼の為であり姫様のためだよ。

まだ、此処は僕の縄張りだからセッカの部下もアヤメの部下も他の皆の部下も来ないけど

僕の縄張りから出たら皆が姫様を見てる。」


本当ストーカーかよ…


「だけど、それは出来ねぇわ。

見てよ、あの姫様の顔。

初めて同年代のちゃんとした友達出来て嬉しそうだろ?

だから、俺は姫様が願った通り彼奴を連れ旅に出るよ。」


「っ!骸!いくら君が強くてもっ!

数には負けてしまうんだよっ!?」


俺は、強い。

元々俺が持ってる力は全て姫様が持っていた力。

赤子の姫様は全ての力を俺に渡した。

何故そんな事をしたのか今となってはわかんねぇけどさ


「わかってる。

だけど、姫様とアイツを逃がすくらいの事は出来る。

一度姫様をアイツラが見失えば俺以外に姫様を見つけ出す事は出来ない。

それは、チナもよく分かってんだろ?」


「…骸。

そろそろ姫様にも話すべきだよ。

僕が知ってほしいと思ってるのもあるけど

危険を知らなければ、警戒する事も出来ない。

姫様は、余りにも…知らな過ぎる」


「知れば、姫様は死ぬよ。

姫様は、自己犠牲の塊だからな

自分がいる事で戦いがうまれ誰かが傷つくのなら自分が死ねば丸く収まると思うだろうね。

だから、言わない。

姫様は、知るべきじゃない。」


知れば確かに姫様にも危機感がうまれ警戒出来るかもしれない。

けれど、姫様はきっと考える。

こんな事になる元凶は何なのか。

そして気づく。自分の存在が周りを狂わせてるという事に。

自分が消えれば誰も争う事はないと…気づく。


だけどね、これは俺の我儘だけど

姫様には死んでほしくないんだ。

笑って自分で見つけた愛する人と幸せに生きてほしいんだ


「それに、いつか姫様も恋をする。

そうなれば今アイツが居る事なんて些細な事になる。

姫様にも感情がある。

セッカ達が求めるようにお前達を求めるとは限らない。

俺はね、チナ。姫様が誰を選ぼうと

姫様が幸せならそれでいいんだよ。

その幸せを守る為に死ねるなら本望だよ。」


それが俺が生まれた意味であり存在理由。


「…骸。僕は忠告したからね。

ただ、もしも彼を連れてこの先旅を続けるなら早めにセッカ達の所へ行くのをオススメするよ。

時間が経てば経つほど、嫉妬で理性が消えていく。

理性が消えてしまえば、どうなるか…僕にもわからない。

僕は理性だけは、決して手放したくないからね。」


姫様の存在は彼等にとって麻薬の様なもの

だから、誘惑に抗うのはとても辛く苦しい

理性という名のストッパーを外したほうが楽なんだ。


「わかった。考えとく。

さてっ、そろそろ戻りますかね

串焼きもなくなっちまったみたいだしな。

チナ、ここにいる間は姫様と楽しめよ。」


「フンッ、そんなの骸に言われなくたってするよ!

姫様!!!僕が街を案内するよ!」


俺に向けたムスッとした顔は何処へいったのやら

姫様に向ける顔は、ガキのような笑顔。


「はぁ…やる事は山積みだ」


あの笑顔を守らなきゃ。

もう、俺は姫様のあんな顔は見たくないから…



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