第3話

 塩辛いマックのポテトも尽きた。そろそろ潮時だろうか。店員に作り笑いをして店を出る。

 合格発表以降、俺の笑いは、「作り」と「自嘲」しかない。苛烈な鋭気は俺が享楽の微笑みを漏らすのを許さない。よりによって、俺みたいな人間が地に落ちるとその反動か、苛烈な鋭気が心を貫く。もはや少年ではないが、「ほかの人より何倍も勇敢で、何倍も志が高いのに」という精神が善いことだと思ってしまう。

 今自分がここに立っていられるのは上を向いてひたすらに壁を上り続けた俺がいたからだ。上を見続けると周りが見えない、ゆえに決めつけによる判断が多くの割合を占める。そういう意味でも割を食ってきた。このような生き方は今後も苦難を招き入れるのだろう。茨の棘はより鋭くなるが、俺はそれを知ってもなお、さらに上り続けるのだ。体が勝手に動く。そして、努力の総量がどんどん積み重なり、向上心をより尊大に、羞恥心をより苛烈にし、自尊心はより繊細、臆病になる。

 人は努力するのを才能だというが、俺からしてみれば休めることこそ才能だ。既存環境の呪縛から解放された田中や小谷のように。俺はしたくてもできない。そこに山があるから登る。いくら疲れていたとしても登る。雪崩が来ようと、落石が来ようと、手は勝手に動く。

 そうこうしているうちに広い公園にたどり着いた。昼時の広々とした公園は、春休みに入った子供たちの聖地だ。俺の子供時代にはスマホなんてものはなく、ゲーム機で遊ぶにしても、子供は基本的に公園に集まっていたのだ。子供の心はタブラ・ラサであり、得られる経験に沿って、その色に染まっていくという古代ローマの哲学者アリストテレスの話を思い出す。世の喧騒にさらされて、人は自分という主義を確立していく。ということは、俺はやっぱりどこかで道を間違えたのか?高3の塾いかないという選択なのか?いや、問題はより根深いはずだ。

俺はこれから再び、森でやったこと、マックでやったこと続きをするだろう。自分の血まみれの心に、もう一本刃物を突き立てるだろう。

 しかし、珍客がいた。同級生の黒岩だ。

 俺と黒岩は中高一貫校のおかげでもあろうか、中学以来の親友だ。親友は戦友でもあった。今回の受験での俺の塾に行かないという挑戦にも彼は賛同し、一緒につるんで勉強した。互いに全力を尽くしたが、現実は無情、明暗が分かれた。だが、ほかの人よりかはまだはっきりとしていない。彼は俺とは逆で、東帝大学理科一類に合格したが、和瀬田大学や京王義塾大学は不合格だった。それゆえ、今の俺には、彼はまだ親しみやすい人と映った。

 合うか素通りするか迷っているうちに黒岩は手を振って近づいてきた。

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