6/19 「高校生の休日 angle:Moegi」

(玄関のチャイム)


(階下へ駆け下りる音)

(カメラ切り換え:玄関)


「はいはいはい……あ、遠藤」

「おいーっす草薙。今晩泊めてくれ」

「またか……女子寮には帰らんでいいのか?」

「いいのいいの。私は縛られない女なんだ」


(『縛られない女』 ノートに記述)


「はぁ……まぁいいや、上がってくれ」

「どもどもー」


(両名フレームアウト)

(カメラ切り換え:草薙さん自室)


「はぁー、相変わらず金かけた机周りね。この椅子とか幾らするの? ショタコンのくせに」

「そこはショタコン関係ないだろ」

「あーあ、この座り心地。私も良い椅子欲しいなぁ」


(買い物メモ:良い椅子 要検討)


「さて……」

「おいなに他人のベッド下漁ってんだ――その俳優の写真集はどっから出てきた?」

「いや、前来た時に置いてたやつ。草薙んち子供しかないじゃん、二次元ばっかだし」

「どうりで最近夢見が悪いと思った……」

「別に、これ普通の健全本よ? 私が勝手に妄想してるだけで」

「けっ、二次成長終えた男に欲情するなんて気味が悪い」

「それは違うわね。私は男と男が交わるのを傍目で見ていたいの。私自身がそこに加わりたいなんて願望は一欠片もないわね。大桃に誓って」


(『あくまで鑑賞専門』 記述)


「あーあー分かったよ、お前と性癖そりが合わないのも未来永劫だな」

「そういうこと」


(両名、そのまま沈黙。遠藤さんは読書、草薙さんはゲームに集中)

(そのまま一時間経過)


「お腹減ったな」

「夕飯は食ってこなかったのか?」

「いや、出してくれるもんだと」

「図々しいな……まぁ、ウチだって事前に言ってくれれば用意ぐらいしてるけど。どうする? コンビニ?」

「かなぁ……ってあれ、財布がない。まさか寮?」

「連絡してみれば? 萌木さんに」

「あ、そっか」


(遠藤さんスマホを操作)

(数秒後、スマホに通知)


『萌木さん、部屋に私の財布無い?』


(返信:『ありますけど、送りましょうか?』)


『ホント? じゃあ駅前のコンビニ。アイスおごってあげる』


(ガッツポーズ)

(返信:了解と敬礼するキャラクターのスタンプ)

(出発準備、着替え)

(カメラ電源オフ、マイクによる盗聴に切り換え)


「コンビニまで持ってきてくれてるって」

「なんだそれ、至れり尽くせりかよ……ってか、実際どうなの?」

「何が?」

「何がって、萌木さんと。アタシ達から見てると、お前ら仲良いのか悪いのか分からんから」


(クリティカルな質問)

(マイク音量微増)


「んー、萌木なー……悪いやつじゃないとは思ってるけど、私にはどうにも闇を感じて仕方ない」


(しょんぼり)


「まぁお前から見たらそうかもしれないが……ああでも、この前話したとき、BLが好きって言ってたぞ」

「マジで!!!???」

「いきなりがっつくなびっくりする!」

「そっかー、萌木さんBLが好きなのかー」


(遠藤さん、声音に歓喜含)

(しかし草薙さん証言虚偽)

(私、勘案)

(そして決意、遠藤さんの前ではBL好きキャラ路線)


「よーし、なら話が変わった、今日は帰る!」

「どしたいきなり」

「男子寮に乗り込むのに萌木も連れて行こう! ならコンビニでコンドーム買ってこなくちゃな!」


(買い物メモ:コンドーム)


「じゃあな草薙! また今度!」

「ああ、じゃーな……ってこら! この写真集持って帰れ」


(遠藤さん、草薙さん自室より離脱)

(マイク電源オフ、イヤホンを外す)

(スマホ確認、メッセージ通知二件。片方は遠藤さん)


『ごめん! やっぱり女子寮に戻ることにしたけど、買い物あるからコンビニまではお願い!』


(続けて頭を下げるキャラクターのスタンプ)

(返信:『分かりました、お気を付けて』)

(もう一件の通知確認。相手、杉山さん)


『明日のショッピングだけど、集合は十時駅前でいいんだよね?』


(返信:『ええ、その予定で大丈夫です』)

(杉山さんより返信)


『分かった! おやすみなさい!』


(返信:布団に入るキャラクターのスタンプ)

(ほっ、と一息)

(女子寮を出て、自転車に乗る)

(夜空、晴れ)

(今日は、同級生とのメッセージのやりとりが二件)


「……ふふっ」


(ペダルを漕ぐ)

(夜風、頬を撫でる)


「今日は、とても良い――」


(良い、休日です。)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る