6/3 「ゾウ 転生編-2」

 表現が厳しく規制された戦時中の、とある一頭のゾウの物語。

 投獄された飼育員が拘束される前日に友人に話したとされるそれは、日本一有名な、エロ漫画を求めた男達の物語だ。僕も小さい頃、ねだってはよく母に絵本を読んでもらったことを覚えている。


 ――その当事者であるゾウが、どうやら僕のち○ことなっているらしかった。


『いやぁ、願いはとりあえず言ってみるものだね。この国も、見ないうちにだいぶ発展しているみたいだし』


 結局ショーツを脱いだところで普通に聞こえてくる声を、僕はもう諦めて対応することにした。


「そりゃ、お前が生きてたのは五百年近く前の話だからな……まさか実話だったとは」

『僕からすれば、快○天がまだ月刊で連載している方が驚きだけどね』

「で、どうすんのさこれから」

『何を?』

「何を、じゃないよ。自分のち○こがひとりでに話し掛けてくる生活がこれからも続いていいと思う人間がどこにいると思ってんだ」

『勃たせることもできるよ』

「そういうこと言ってるんじゃ……ってあれちょっと待てホントに……!?」


 そんなこんなの一悶着を経ながら、僕は彼とうまく付き合っていくためにルールを決めた。


 一つ、困った事情がない限り僕に話し掛けてこないこと。

 二つ、その対価として週に一度女装をすること。


 どうしてこんなことになったのだろう。もしかして因果が逆で、こいつが僕のち○こに生まれ変わったから僕が女装に興味を持ったのではないだろうか。そんなことを考える夜も少なくない。そういう夜に限って『溜まってるね、少年。一発ヌいとく?』などと話し掛けてくるのだから真面目に困っている。誰のせいで頻度が増やせないと思ってんだ。


 そうして、彼がいることを嫌々ながらも受け入れ始めた週末。

 僕は足を延ばし、隣町のショッピングモールにまで来ていた。


『どうしてまた、こんなところまで?』

「下着くらいならいいけど、服をネットで頼むと親にバレるかもだろ? だからといっていつもの店だと知り合いに見つかるかもしれないし、ただの消去法だよ」

『なるほどねぇ……君は、そんなに自分が女装していることがバレたくないのか』

「当たり前だろ、恥ずかしい」


 だから今まで踏み切れずにいたんだ。


『そっか……』


 しょんぼりと、股間のそれがより縮こまるのを感じる。自分の局部で相手の感情を推し量る日が来るなんて、一体誰が考えるだろうか。少なくとも僕にはなかった。


「お前は、僕に堂々としてほしいのか?」

『あぁいや、別に恥じらいながらの女装は大好物だよ』


 ちょっと元気が戻り、ショーツの生地が張る。正直泣きたい。


『けれどそれはさ、あくまで他人に強要されるから美味しいんだよ。クラスの女子に可愛がられて無理矢理女装させられて、その姿を見たクラスメイトがそのまま理性を投げ捨てて襲いかかってくるようなシチュとかさ』

「エロ漫画かよ」

『でも、君は自分から女装がしたいと思った。その思いは尊重されるべきで、恥ずかしいものとして見られるべきではないと僕は思うんだ。君の女装を見て、その人はどんな被害を被る? 僕にはそれが許せない』

「お前……」


 熱く語る海綿体ゾウに血が滾る。


『だから少なくとも、僕は恥ずかしがってほしくないと思うことにするよ。堂々としている女装の方が、何倍も格好良くて可愛いに決まっている』


 猛々しい状態にさえなっていなければ、僕は彼に心を許したことだろう。結局僕は彼を落ち着かせるため、一度トイレへと駆け込んだ。

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