6/2 「ゾウ 転生編-1」
階下からのチャイムに、僕は転がるように階段を駆け下りた。
「すいませーん、宅配便でーす」
「あ、ありがとうございます……」
受領印にシャチハタを押し、僕は小さな段ボールを受け取る。
「リオー、何だったのー?」
居間でドラマを見る母さんが大きな声で聞いてくる。僕はそれに「自分宛の、頼んでた本が届いたんだ」と嘘をついて、弾む足取りで自室へと戻る。
(さぁて……)
ダンボールを開封している段階から、僕の心臓はどくどくと大きく脈打ち始める。
段ボールの中から箱を取り出す。さらにその箱を開け、僕はそれを両手で持つ。
それは、ピンクでふりふりの女性用ショーツだった。
* * *
昔から、女装に憧れがあった。
女装と呼んでいることからも分かるように、僕自身の性自認は男で間違いない。これまで好きになった人間も女の子だけだし、まぁごくごく大多数に分類されるのだろう。
けれどいつからか、女の子を服を着てみたいと思うようになった。フリルのいっぱい付いたスカートとか、花柄のかわいいワンピースとか。高校生となった今では、ショッピングモールの洋服を眺め、それを着る自分のことを想像してしまうくらいに欲求が膨らんでいる。
でも、実際にそれを行う勇気が僕には足りなかった。買った服が家族にでも見つかったらどうしようと考えてしまっているのだから、女装して外を出歩くなんて到底出来っこないだろう。
でもやっぱり、着てみたい――。
かくして欲求とヘタレに挟まれた僕が出した結論が、まず下着から身につけてみようというものだったわけである。下着ならかさばらないから容易に隠すことができるし、他人からは見えないから着たまま外出することもできる。
そう考えネットで購入してから三日。
今僕の手には、僕自身のショーツがあった。
(それじゃあ早速――)
ドアの鍵を閉め、僕はズボンとパンツを脱ぐ。せっかくだからと下の毛も昨日のうちに処理していた。
唾を飲む。初めて女性用の衣服に脚を通す瞬間に、鼓動は際限なく速まる。
そして僕の股間と、ピンクでふりふりのショーツが邂逅したとき――
僕の股間が、視界を埋め尽くすほどに光を放った。
* * *
『少年よ……』
一体、どのくらいの時間倒れていたのだろう。
気がつけば、僕はTシャツにショーツと童貞の想像する自宅ぐーだらお姉さんみたいな格好で床に倒れていた。
『少年よ……』
体を起こす。特に痛いところもないし、体に異常はなさそうだ。
『ねぇ、少年……』
それにしても、さっきから見知らぬ声が聞こえてくるのだがこれは一体何だろう。まさか駄目になったのは頭だったのか?
『いや、君は心身いたって正常だよ。僕が保証する』
なんだ、お前は。どこにいる?
『僕かい? 僕がいるのは、君の股間だよ』
……今、股間って言った?
『言ったね。ああいや、下着は脱がないでおくれ。どうやら僕は、君が女物の下着を身に付けているときだけ意識が保てるらしいからね』
ああ、だめだ。やっぱり僕は頭がおかしくなってしまったらしい。
『いや、待ってくれ。せめて話だけでも。先っちょ、先っちょだけでいいから!』
はぁ……じゃあ仕方ないから聞くけど、お前は一体なんなのさ。
『僕かぁ……とりあえず要点だけ掻い摘まんで一言で言うよ』
――そして彼の言い放った言葉に、僕は言葉を失うことになる。
『僕はゾウ。念願叶い、どうやら君のち○こに生まれ変われたらしい』
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