5/23 「ショタコンの休日-1」

 某所の公園で、ふたりの少年が砂場遊びをしている。


「しゅーいち、そっちからほって」

「わかったよ、たろうくん」


 彼らの腰ほどまでに盛られた砂山に、両サイドからスコップで穴が掘られていく。小学校低学年ほどの小さな手に握られたスコップは、少しずつ砂をかきだして横に小さな山を作っていた。


 そんな彼らを、離れたベンチから観察する男女がいた。


「はーーーーーーーー砂になりてぇ」


 突如砂塵願望を叫んだのは、ショタコンの草薙である。十数メートルのソーシャルディスタンスを取りながら双眼鏡でまじまじと観察する彼女の緩んだ頬に、隣に座った男は肩を落とした。


「ったく、お前が双眼鏡貸してくれと聞いてきた時点でそうじゃないかと思ったが、相変わらずブレねぇな」


 その男は黒いコートを羽織っていた。オールバックに固めた髪に無精髭、彫りの深い目元には、痛々しい傷痕が残されている。休日の昼過ぎの公園には似つかわしくない、どこに出しても怪しい不審者だ。その傍らには、ギター用の楽器ケースが立て掛けられている。


「フン、アンタには言われたかないけどね。日本にいるうちはただの機能不全のくせに」

「けっ、好き勝手に言ってろ」


 草薙が再び双眼鏡で観察を開始し、男がおもむろに煙草に火を点けた、その瞬間。

 キキーッ! と、どこからともなくブレーキ音が鳴り響いた。


「「っ!?」」


 音の方向に目を向けると、公園の入り口にハイエースが停まっていた。そしてその後部のドアが開くと、三人の覆面姿の男が飛び出してきた。

 男達は真っ直ぐに、砂場で遊ぶ少年二人の元へ走る。何が起こっているのか分からずその場にしゃがみ込む少年達を、男達は乱暴に抱き上げた。


「わー!」


 ぽかぽかと覆面男の背中を叩くものの、無理やりに少年達は担ぎ上げられ、ハイエースに乗せられる。そしてドアが閉まるのも待たずに、車は再び走り出す。


 そんな十秒にも満たない出来事を、二人はベンチに座ったまま――草薙に関しては双眼鏡越しで――眺めていた。


「――っておい何呆けてんだ! 追うぞ!」


 背を叩かれ、草薙は正気を取り戻す。


「はっ、いかん誘拐されるショタが可愛くてつい固まってしまった!」



(明日に続く)






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