第5話 孤独な覚悟

 どうすればいいかわからない。


 勢い良く走る馬車の中でハルタは頭を抱え、先にある未来に絶望していた。


 なんで、いつもこんな目に合わなくちゃならないんだ。

 なんで……、なんで俺が………。


「大丈夫です。」

「えっ?」


 下を向いていると突然、エレナがハルタの手を優しく握ってきた。


「何があっても私はアリル様とハルタ君を守ります。…………仲間ですから。」


 エレナは頬を赤く染め、照れながらそう言った。


 仲間。

 そうだ。そうだったな。


「––––そういえば、この言葉は俺がエレナに言った言葉だったよな。おかげで思い出せた。」


 そして忘れかけていた決心も思い出した。


 ハルタは笑みを作り、立ち上がる。そして、アリル、エレナを交互に見ると、


「俺がなんとかしてみせる。俺がバッドエンドを回避してやるよ。」



 ***


 ハルタが堂々と宣言して二十分が経った。馬車は未だに花畑を走り続けている。


「まだ、一時間経っていないが、そろそろ準備に入らないとな。」


 ハルタは立ち上がり、鞘から剣を抜く準備をする。


 あの未来は絶望の途中を映したものだ。なら、ちょうど一時間後にあの花豚が襲ってくるとは限らない。あと一分。いや、一秒後に襲ってくるかもしれない。


 だからこうしてハルタは戦う準備をしているのだ。


「ハルタ。私達も戦うわ。」

「はい。ハルタ君だけ危険晒すわけにはいけません。」


 あぁ。この二人は、なんと優しいのだろうか。

 こんな俺の為にそこまでしてくれるなんて。


 でも、俺は。


 ハルタが言葉を出そうとしたその時、馬車が大きく揺れ、後ろから何かが飛び出して来ていた。


「くそっ、もう来たのか。」


 地面から大きな豚が現れた。

 ただの豚じゃない。背中に無数の綺麗な花が咲いているが、それ以外はとことん醜い姿をした豚だ。


 体全てを地上に出し切り、馬車に向かって来ていた。 


「ここで、倒そう。多分逃げても無駄だ。」

「そうね。今ここで倒さないと安心できないしね。」


 アリルとエレナは一歩前に踏み出し、ハルタと共に戦おうとするが、ハルタは両手を伸ばし、二人を止める。


「俺が囮りになる。二人は馬車の中で魔法を撃ってくれ。」

「えっ!?そんな無茶……。」


 戸惑うアリルの肩に手を置いて落ち着かせ、エレナへ視線を移す。


「俺は死なない。エレナ。お前はその言葉を信じれるはずだ。」

「それでも……。ハルタ君はいいんですか!?」

「嫌だよ。でもみんなが傷つくのはもっと嫌だ。だから、俺に任せてくれ。」


 ハルタは御者に馬車を止めるように頼む。


「ドーラ。」


 自分の顔を強くイメージし、軽くする。

 そしてまだ勢いが消えない馬車から飛び降り、ハルタは前にいる一匹の魔獣と対峙する。


「鬼ごっこしようぜ。豚野郎。お前が鬼な。」


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