第1話 旅の始まり

「はっ!はっ!はっ!!」


 声と共に剣を振り続ける。

 手はマメだらけになり、体中は汗でびっしょりだ。だが、その汗は異世界に来る前とは違い、サラサラしていて爽快な気分だ。


「エレナ。後何回かわかる?」

「はい。後十回で百回ですよ。ハルタ君。」

「そっか。サンキューな。」


 ハルタの隣に座っているのは一ヶ月前にメイドになったエレナだ。


 メイドになる前はハルタとぶつかり合う……エレナの勘違いで一方的に攻撃を仕掛けていたのだが、ハルタの行動により、誤解も解けて、今のような関係性になったのだ。


「百!!……今日の分は終了だな。」

「お疲れ様です。ハルタ君。」

「あぁ。ちょっと風呂に入って来るわ。」

「はい。わかりました。」


 汗を拭い、ハルタは脱衣所へ向かう。

 

 汗だくになった服をかごの中に入れ、大浴場に飛び込む。


「あぁ……」


 最高に気持ちいい。

 やはり鍛錬の後の風呂は最高だ。


「明日出発か。早いもんだな。」


 出発というのは、一ヶ月前にアリルが話した北の王国ネルエルに行く事だ。


 アリルの話によるとネルエルと言う国は非常に綺麗な町らしく、海に近い事から水の都とも呼ばれている。


「水の都かー。テレビとかでよく見るけど、生では見たことがないから楽しみだよな。」



 ハルタは明日からの旅を想像して、ウキウキしながら至高の時間を過ごすのだった。




 ***


「とうとう今日から北の王国に向けて出発かー。」

「えぇ。馬車での移動だから着くのには十日もかかっちゃうけどね。」

「そうだな。旅の途中、魔獣が襲って来るかも知んないけど、俺とエレナに任せておけ。ぶっ倒してやる。」


 屋敷の入り口でハルタは鞘に収まった剣を見せびらかし、ふふーんと言い笑みを浮かべる。


「そうですね。私達に任せておいてください。」

 

 メイド服で背中には弓を背負っていエレナはそう言った。


 エレナが弓を使う事にハルタは最初は驚いていたが、エレナの基本的な戦闘スタイルは弓と魔法を使った戦い方であり、一ヶ月前のあの時は、弓を修理に出していて、魔法だけを使っていたらしい。


「わかった。任せるね。」

「あぁ。頼りにしててくれよな。」


 そうしてハルタ達は馬車に乗り込み、北の王国ネルエルに向けて出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る