第11話 その剣士の名は

 壊れた肉体が再構築されていく。

 その間。時は止まり、復活していくハルタは目を覚ます。


 やがて意識を取り戻すと時は動き出し、ハルタは完全復活を遂げる。


「復っ活!おら、魔獣ども!!喰らえよ!」


 ハルタは火のマジックリングを押した後、風の生活魔道具のボタンを押す。

 火と風が組み合わさり、火の嵐が完成し、多数の魔獣が嵐に巻き込まれる。


「ハルタ!?」

「よっ。アリー、このまま魔獣を一掃しようぜ。」

「えっ?う、うん。」


 状況に理解が追いつかないままアリルは魔獣を倒す為に魔法を撃ち続ける。


「アル・ドライド!」


 アリルは魔法を唱え、火の球を魔獣にぶつける。

 火は広がり、一匹から二匹……四匹にまで広がる。


「凄いな……ってか一体何体倒せばいいんだ。」


 アリルとハルタで合わせて二十匹以上は倒した。なのにまだ、魔獣達の進行は止まらない。


「森の中にこんなにいるのか……いや、多分違うな。」


 ハルタの頭の中に魔人と言う人物が思い浮かんだが、既に封印されている事を知っている為、魔人という可能性を捨てる。


「じゃあなんで……?」


 いや、考えてる暇なんてねぇな。


 ハルタは闇のリングの宝石を押し込み、魔法を発動させる。


 魔獣達がいる地面が黒くなり、そこにいる者達を飲み込んでいく。


「まさに闇って感じだな。」


 使った感想を述べ、再び魔道具を使い、魔獣を倒していく。



「マナが尽きて来た……。」


 声が聞こえアリルを見ると、明らかに疲れ切っていた顔をしていた。


「なら、後は俺に……ってあれ?」


 マジックリングについてある宝石を押してみるが反応が無い。リングの力を使い切ってしまったのだ。


「ちょ、俺のカッコいい復活が台無しじゃねーかよ!」


 ハルタはまだ使える風の生活用品の魔道具で大きな風を起こし、魔獣達の動きを止める。


 その隙にアリルへ近づき、ハルタは。


「きゃっ!?ど、どうしたの?」

「逃亡の準備だ。」


 アリルを抱え、ハルタは海堂春太カイドウ・ハルタと言う人物の顔を頭の中に浮かべる。


「–––––ドーラ。」


 ハルタが使える数少ない内の一つの魔法。『ドーラ』を唱え、自分の体を軽くする。


「あっ、ついでにもう一つ。ドーラ。」


 アリルにも唱え、軽かった体が更に軽くなる。


「軽すぎて天使の羽みたいだよ。」


 軽口を言った後、アリルを抱えたまま、ハルタは魔獣と反対方向に走り出す。


「じ、自分で走れるから!」

「だめだ。ほんとは魔法をぶっぱしすぎて疲れてるんだろ?だから俺に任せろ。」

「で、でも……」

「男。みせるから。」



 風の効果が切れ、魔獣達が走り出す。

 ドーラの効果で走る速さが上がっている分、ハルタは追いつかれる事が無いが、


「俺の体力次第で全てが決まるか。」


 ハルタは苦笑し、草原から森へと突入する。


 左右からの襲撃もあったが、跳躍で回避し、ひたすら前に進み続ける。


「っ!しつこいな!!」


 闇のマジックリングだけ力が残っており、その力で後ろから迫って来ている魔獣達を飲み込む。


「––––っ、くそ!」


 動かしていた足を止める。

 止めていなかったら死んでいたからだ。


「崖とか……こんな所でありがちな展開を添えてくんじゃねーよ。」


 闇のリングを使おうとするが、これも力を使い切ってしまっていた。

 まさに万事休す。


「こうなったら俺が囮りになるからアリルは逃げ––––!」

「その必要は無いね。」


 男の声が、ハルタの声を遮った。


 現れたのは一般人が着てるような衣服に頭には高価そうな兜をかぶった不気味な人物だった。

 そして手には青黒い一本の剣があった。


「後は僕に任せて。」


 そう言い残し、兜の男は単身で魔獣の群れに突っ込んでいく。


「あの剣は……」


 アリルは兜の男の持つ剣を見て驚いていた。


「知ってるのか?」

「うん。あれは英剣エルド。英雄エルロードが使っていた剣。現在ではその子孫のアレフバルトが所有してるって聞いてたけど。」

「って事はあの人って……。」

 

 兜の男を見る。


 姿は不気味なのだが、魔獣達を圧倒している。

 凄まじい剣撃だ。


「ネロ・ウォール」


 男は地面に手を当てるとそこから土の壁が生成されていく。

 それに一蹴り入れ、壁を粉々に壊し、


「フラ・フーマ」


 魔獣達に向かって風を吹かせ、粉々に砕いた土が細かい刃となり、魔獣達を襲う。


「す、凄い。」


 ただそれしか言葉が出なかった。


 アリルでさえ手こずっていた数の魔獣をいとも簡単に倒したのだ。


 それを見た残りの魔獣は身の危険を感じたのか、逃げていく。


「大丈夫かい?」


 男はハルタ達に近づき、心配そうな声で聞いて来た。

 ハルタはなるべく余裕を浮かべ、


「お、おう。あそこで俺の切り札を発動しようとしてたんだけど……まぁ、ありがとな。」

「どういたしまして。もう、魔獣は来る事はないだろうから切り札は使う必要が無くなったね。」



 魔獣の襲撃が終わったと再認識し、腰が抜け、アリルを抱えたまま倒れる。


「あんた。結構意地悪な奴だな。」

「ははっ、それほどでも。」

「いや、褒めてねーから……。つっこむ気力もあんまねーな。」


 ハルタは苦笑し、兜の男を見る。


「ほんと、おかしな格好だな。」

「自覚はしてるよ。それよりその人、気失ってるよ。」

「えっ、本当だ。早く屋敷へ戻らないと。」

「念の為僕もついて行くよ。」

「そうか。サンキューな。」



 それから会話も無く、森を抜け、屋敷に戻る事が出来た。


「着いた……。ありがとよ。名前はなんて言うだ?」

「………名乗る程でもないよ。それじゃ、またどこかで会おう。」


 男はそう言い残し、何処かへ消えて行った。


「まぁ、なんとなく誰かわかるけどな。」


 1人呟き、ハルタはアリルを部屋まで運んだ。

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