第10話 覚悟の自殺

 あれから準備を終わらせ、ハルタとアリルは屋敷の奥にある草原を目指していた。


「あそこは見渡しがいいし、襲われるとしてもまず不意打ちは出来ないと思う。」

「そうか。ならひとまずは大丈夫だ。」


 獣道をかき分け、草原を目指す。

 道中、魔獣の襲撃は無く、まるで嵐の前の静けさのようだった。


「–––––着いた。」


 獣道を抜け出し、見渡しの良い草原に着いた2人は森から離れるように移動する。


 ハルタは残り少ないバッテリーを使い、スマホを開き、時間を確認する。


「10時5分。あれから30分か。」


 スマホをしまい、辺りを警戒する。


「例え場所変えたとしても襲って来る可能性がある。慎重に行こう。」

「ええ。わかってる。」


 アリルは手を前に構え、いつでも魔法を放てる準備をしている。 

 ハルタは昨日買った魔道具と掃除に使う風の魔道具を付ける。


「念の為買ったのはいいが、次の日に早速使うとは流石に予想してなかったぜ。」


 ハルタは苦笑し、昨日買ったマジックリングを見る。


「今だけ俺最強じゃね?」


 火、水、地、風、光、闇、そして無属性の魔法が使えるハルタは笑みを浮かべる。


「そのリング、普通の魔法よりは威力が低いけどね。」

「––––まぁ、全部使えるし強い事には変わりねぇよ。」

「うん。そうね。」


 アリルにリングの欠点を言われ、内心落ち込んでいるハルタだが、周りの警戒は怠らない。


「場所も移動したし、未来が変わってくれると––––––はっ?」


 独り言を呟いていると、急に空が暗くなり、ハルタは上を見上げると。


「う、上から魔獣が!」


 魔獣が上空からアリルとハルタに向かって落ちて来たのだ。


「私に任せて!」


 そう言いアリルは魔獣に手を向け、先端が尖った氷の塊をぶつける。

 氷は魔獣を貫き、絶命した魔獣が地面に落ちる。


 なぜ上空から?


 などと考えていたハルタだが、アリルの声により、我に帰る。


「魔獣がどんどんやって来た……!」


 ハルタとアリルが空にいた魔獣に気を取られていた間に魔獣が森からやって来ていた。


 そしてハルタは考えてしまった。


「––––誰かが意図的にやったのか?」


 そう思いたくは無かった。だがそれしかハルタは思いつかなかった。


 空にいた魔獣は明らかに陸上型で羽もなければ浮遊もしそうにはなかった。


 もう少し考えようとしたが、それを中止し、森からやって来る魔獣を見る。


「俺のゲーム知識を活かした無双タイムがやって来たか。」


 ハルタはマジックリングと風の魔道具を装てる右手を前に向け、地の魔法が使える地のマジックリングをつまむ。


「確かこの宝石を強く押すんだったよな。」


 リングについてある小さな宝石を押し込む。


「うおっ!?」


 リングが光りだし、正面には大きな土壁が地面から飛び出て来た。


 これでしばらくの間は魔獣はやって来ないだろう。


「これが地のマジックリングの力か。思ってたより凄いな。」


 マジックリングを見て次の一手を考える。


「アリル。光の効果はなんだ?」

「癒しの力。傷ついた人を癒す事が出来るの。」

「つまりヒーラーって事か。これはもしもの時に使おう。」


 他の手を考えようとするが、土壁にヒビが入り始めて来た。


「くそ。考えてる時間は無いか。基本的にはアリルに頼り切りになってしまうかもしれんが俺だって一匹や二匹倒してやる!」


 とうとう土壁が崩壊し、魔獣達が一斉に迫って来る。

 ハルタはリングをつまみ、魔獣を倒そうとするが、ある事に気が付く。


「あいつら、アリルだけを狙っていやがる!」


 その事に気づいたハルタは急いで火のリングの宝石を押し込む。

 炎が魔獣を包み、ジリジリと炙り始める。


「火は相手を囲い日炙りにするのか……。」


 アリルは次々と魔獣を倒している。ハルタも負けじとマジックリングの効果を試しながら戦う。


 水は水圧を使い敵を押し潰す。風はかまいたちのような勢いで敵を斬り裂く。


「光を除けば後は闇だな。」

「ハルタ!」


 闇の宝石を押し込もうとした時、アリルの声が聞こえた。


「––––は」


 アリルの方へ顔を向けた時、そのすぐ横から魔獣がこっちに向かって来ている事に気付いた。

 だが、気付くのが遅く、魔獣に右腕を食いちぎられてしまう。


「あ、あ、あああぁああぁぁっっ!!?」

「ハルター!!」


 アリルはハルタを襲う魔獣に向けて氷を飛ばし、魔獣を倒す。

 だが、その隙に魔獣の進行を許してしまい、よりいっそうの魔獣達がアリルへと近づいて来る。


 完全に油断してた。


 右腕の出血が止まらない。止血しないと大量出血で死ぬかもしれない。だがそれにも時間がかかる。


「––––止血しても……ただの役立たず………!」



 戦闘不能の俺に再び魔獣が襲ってきたらアリルはまた助けてくれるだろう。

 でもそれじゃ、気を取られている隙に魔獣にやられてしまう。


「………やっぱ、やるしかないのか。」


 ハルタはまだ使える左手で地面に落ちていた木の枝を掴む。


 先端が尖ってて人を殺せそうだな。


 荒い呼吸をしながら、ハルタは枝の先端を自分の喉に向ける。


 怖い。でも誰かを失う方がもっと怖い。


 お人好しで素直で、そして臆病なアリルを–––大切な人を護る為に、ハルタは覚悟を決め、決心するように言葉にする。


「俺がお前を救ってやる」


 臆病なアリルを外へ連れてってやる。



 ハルタは木の枝を喉に突き刺す。

 喉に激痛が走る。


 痛い。でも、躊躇いは無い。


 さらに奥に突き通し喉から大量に血を吹き出す。


「ハルタ!!?」


 大切な人の声が聞こえる。悲痛に満ちた声だ。



 待ってろ。

 俺が必ず救ってみせる。


 今度は心に誓い、海堂春太カイドウ・ハルタは死んだ。

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