第6話 生活用品の魔道具

 鳥のさえずりが聞こえ、目が覚ますと辺りは既に明るくなっていた。


 ハルタは節約の為に消していたスマホの電源を入れ、時間を確認する。


「6時か。ちょっと早いけど起きるか。」


 ハルタは目覚めは良い方だった為、すぐに体を起こし、伸びをした。


「ぐあー。異世界3日目の朝は快晴かー。」


 外を見た後、軽くストレッチをし、トイレに向かう。



 用を足した後、庭に行き再び伸びをする。


「異世界に来ても日課を欠かさずにな。」


 ハルタは地面に手を着き、腕立て伏せを始める。



 ハルタが高校1年生の頃、怠惰をむさぼった結果に膨れた腹をどうにかする為に筋トレを始めたのだが、それがいつの日か日課に変わり、今やハルタは引き締まった筋肉を手に入れていたのだ。

 その日課は異世界に来ても変わらない。もうあの頃のようには戻りたくない。ハルタはこの筋肉を手に入れた時、そう思ったのだ。


「外でやる筋トレは気持ちいいな。」


 腕立て伏せの次は腹筋をする。


 自然に囲まれながらの筋トレも悪くない。



 それからしばらく時間が経ち、筋トレを終えたハルタは朝風呂をしに大浴場へと向かう。


「アリルに聞いたこの魔道具。便利だな。」


 そう言い、ハルタは大浴場の入り口付近に付いているボタンを押す。

 すると、どんどん浴槽にお湯が沸き、あっという間に満パンとなる。


「かあーー。」


 トレーニングの後の風呂は最高だな……。




 しばらく間、湯船の中で体の疲れを癒した後、大浴場から上がり、脱衣所で着替え、リビングへ向かう。



「あっ、おはよう。ハルタ。」


 リビングに着くと既にアリルがソファーに座っていた。


「おう。おはよう。アリー。」


 アリルの真正面にあるソファーに座ると、アリルが大きなあくびをする。


「おっきいあくびだな。さっき起きたの?」

「うん。凄く眠い。」


 眠たそうにしているアリルの顔をじっと見つめる。


「どうしたの?」

「いや、可愛いなーって思ってるだけ。」

「そうなの?」

「うん。」

「ありがとう。」

「どういたしまして。」


 会話が終わり、次第にアリルは困ったような表情に変わっていく。


「アリーをいじるのはこのくらいにして…………さて、これから俺はどう働けばいいかな?」

「……庭の手入れをお願い。」


 アリルは不満そうな顔で仕事を頼む。

 だが、ハルタはあの大きな庭を思い出し、


「え?あれを1人で手入れするの?」

「うん。」

「………」


 あの広大な庭の手入れを想像する。

 素人の俺が1日で出来るのか?


「あっ、これ使って。」


 アリルは何か思い出し、ハルタにある物を渡す。


「これは?」

「風の魔道具。こうやって手に付けるの。」


 そう言い、アリルはハルタの手に魔道具を付ける。


「おお!?なんかかっこいいな!」

「ん。それでこのボタンを押すと強力な風が出て、伸びきった草も切れるから。」

「へー。一歩間違えたら大惨事なりそうな気がするのは俺だけなのだろうか?」


 ハルタは苦笑した後、魔道具を見せつけるようにポーズをとる。


「それじゃ頑張ってくる。」

「うん。お願い。」




 ***


 庭に来ると、早速手を前に出して、ボタンを押してみる。


「ぼあっ!?」


 ボタンを押した瞬間。自分まで吹き飛ぶじゃないかと疑うレベルで強い風が吹き荒れた。


「………凄いな。俺の周りの草が刈り取られてる。」


 例えるなら芝刈り機の上位互換か?


 魔道具。便利な物だな。

 日本にもあったらもっと発展していたのだろうか?


 そんな事を考えながらも、ハルタは同じ作業を続けた。




「–––––これで終わりか。」


 額から溢れる汗を拭き、辺りを見回す。


「結構短くなったんじゃないか?」


 所々伸びていた芝生も全て短くなっており見映えも良くなっていた。


「……他にやる事は無いかな?」


 アリルを喜ばせる為に他にも手伝うとするが、見る限り整っている。


「アリーが1人でやったのか……。」


 俺が来る前、1人でやってたのか。


 ハルタは屋敷を見つめる。


 こんな広い屋敷で1人で住むなんて……やっぱ寂しいよな。2人でも何か少なさを感じるし、1人だと余計だろ。


 ハルタはアリルがいる屋敷へ戻る。



「終わったよ。」

「ん。ありがと。」


 アリルは微笑む。それに釣られハルタも自然に笑みを浮かべる。


「この後は何すればいい?」

「お手伝いの初日だし、今日はもういいわ。そのかわり、勉強を再開させましょ。」

「…あぁ。そうだな。」


 アリルは立ち上がり、ハルタと共に書庫へ向かった。

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