第7話 とある英雄譚
書庫へ来ると、昨日と同じく椅子に座り、アリルは奥から本を取ってきた。
「今日は2つか。」
「うん。昨日の文字入門を観ながら本を読んでもらうの。」
「へー。えーとなになに……」
ハルタは入門書をなぞりながら、タイトルの題名を解読する。
「えいゆうしんげき。英雄進撃?なんかかっこいいな。」
「うん。200年くらいにあった英雄譚らしいの。私この話が大好きなの。」
「どんな話なんだ?」
「それは読んで知って。」
「……それもそうだな。」
そう言い、1ページをめくる。
そこには英雄進撃とだけ書かれ次のページから物語が始まった。
***
昔々、鉄鉱山の領土を巡って北の王国『ネルエル』と東の王国『ルグエル」との戦争があった。
結果はネルエル王国の勝利に終わり、その戦いはのちに大一次鉄鋼戦争と呼ばれ、皆に語り継がれた。
それから90年が経ったある日、再びルグエルが鉄鉱山を狙いに宣戦布告をやって来た。
最初は大人の騎士や戦士が戦場に立って戦ったが、相手の勢力はネルエル王国を上回り、このまま行けば敗北は決定していた。
それを阻止する為、王はまだ未成年の戦士達を戦場に立たせる決断をした。
17歳の少年エルロード・ローランドもその1人だった。
エルロードは貴族ではあったが下の階級。下級貴族であり、剣魔の加護と言う力を持っており、幼い頃から剣を習わされていた為、こうして彼も駆り出された。
彼は戦いたくなかった。怖いから。傷つけたくないから。傷つきたくないから。だから彼は後衛で傍観しているだけだった。
そんなある日、いつものように後ろで傍観していた彼の前に少女が現れた。
彼女はとても美人だった。その美貌にエルロードも簡単に心を撃ち抜かれ一目惚れをする。
彼女はロザリアと名乗った後、エルロードに何故戦わないの問う。
それにエルロードは戦いたくないから。と答えると、ロザリアは怖いなら逃げれば?と言い残し、前線に赴く。エルロードはそれを見て、自分もあんな風になりたいと憧れると同時に、悔しいと言う対抗心がエルロードを突き動かし、エルロードもまた、前線に飛び込む。
だが、現実はそう甘くは無かった。
エルロードはまともに戦えずただの役立たずとなっていた。
剣魔の加護もうまく使いこなせず、本調子では無かった。
そんな中、ロザリアが捕虜として捕らえられた事を知らされる。
惚れた女が囚われた。
その事を知り、エルロードは迷いを捨て、敵の本拠地へ単身で向かった。
助ける為にエルロードは剣を振る。
迷いを捨てた事により、調子も戻り、剣魔の加護も以前よりも使いこなせるようになった。
次々と敵を倒し、遂には本拠地へ辿り着く。
だが大将と思われる男が立ち塞がる。
エルロードは右目を代償に大将を討ち倒し、ロザリアを救いだす。
エルロードの活躍により、この戦争に勝利し、英雄と呼ばれる。
表彰式に呼ばれ、王国の騎士となってほしいと頼まれたが、それを断り、エルロードはロザリアに愛を告げるのだった。
***
「臆病だった少年が惚れた女の為に覚悟を決めたって感じのありふれた英雄譚か。」
本を読み終え、閉じる。
「てか、話の途中にあった加護ってのはなんだ?」
「神から授かりし力。これは持ってる人といない人がいる。」
「へー。……アリルはなんの加護を持ってるんだ?」
加護を持っているのか?では無く、あえて持っている前提で聞いてみる。
「……幸運の加護。」
「––––そりゃ、5属性も持ってるわけだ。」
ここまで行くと本当にアリルは幸運だとわかる。
だが、幸運と引き換えに、友人を失い、周りから妬みの対象となってしまった。
「あっ、そうだ。このお話の後はどうなったんだ?公衆の面前で愛を告白して終わったけど。」
「さぁ?でも、現在でもローランド家の子孫達がいるから成功したと思うんだけど。」
「へー。」
「–––そして今の代のアレフバルト・ローランドって人も逸話を残したの!」
熱が入ったのか。アリルは興奮した様子で話す。
「13歳にして凄腕の剣士と呼ばれ、名を轟かせたんだよ!?」
「う、うん。確かに凄いな。それは。」
アリルの興奮気味に思わずハルタも身を引いてしまう。
だが、アリルも我を取り戻したのか深呼吸をし、話を続ける。
「でも、その数年後、彼は姿を消したらしいの。」
「ん?亡くなったのか?」
「んー。わからない。でも凄腕の彼が亡くなったら大々的に言われると思うんだけど。」
「確かにそうだな。」
ハルタは腕を組み考えてみたが、答えがわからず考えるのを止める。
「––––それでこの後はどうするんだ?」
「……ハルタはここで勉強を続けて。私は町まで行ってお買い物をするから。」
「ならオレも行くよ。実は昨日、訳があって行けなかったから行ってみたいだ。」
「––––わかった。それじゃあ、私はハルタの勉強が終わるまで待ってるね。」
「……へい。」
ハルタは苦笑し、もう一冊の本を読み始めた。
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