第4話 死と知識の

「–––––がはぁっ!!」


 目が覚めるとそこは森の中で辺りは静寂していた。


「–––––生き返ったのか?」


 魔獣は既に居なくなっており、ハルタはあちこち体を触る。


「–––異常無し。昨日噛まれた右腕の傷も消えてる。逆に異常だな……。」


 腕を振り回すが痛みは無く、やはり完治していたようだ。

 そして破られていた服も綺麗に戻っている。



「ぶっ–––!」


 少し冷静になり、殺された時の事を思い出すと、猛烈な吐き気が襲い、その場に吐き出す。


 残酷な殺され方だった。あちこちの肉を引き裂かれた痛みにより気を失う事も出来ずに、そのまま死んだ。 ––––二度と思い出したく無いし、死にたくないな。


「––––そうだ。時間は。」


 ポケットに入れていたスマホを取り出し時間を確認する。


「11時20分。俺が観れる未来は約1時間後って事か。」


 スマホをしまい、喉を刺激する胃液に嫌悪感に耐えながらも、遠くに見える結晶の光を頼り歩きだす。



 獣道を突き進みようやく道へ戻って来ると、一つだけ結晶に光が弱い事に気がついた。


「これのせいで俺は魔獣に引きずり込まれたのか?勘弁してくれよ。」


 おかげで海堂春太と言うちっぽけな人間の命が犠牲となったのだ。


「––––人って簡単に死んでしまうんだな。」


 実体験により感じた事を呟きながら、再び屋敷へ急いだ。




 ***


「お帰り。早かったのね。」

「あ、あぁ。」


 ハルタは作り笑いを浮かべ、屋敷に指を差す。


「昨日の事もあってまだ疲れてるから寝かせてもらうよ。」

「………何で右腕が治ってるの?」

「あっ。」


 やってしまったとハルタは後悔する。


 ハルタは右手で指を差していた。グルグル巻きだった包帯も魔獣の襲撃により解けていて、傷が治っているのをアリルはしっかり見ていた。


「さ、さぁ?俺の自然治癒能力が高かったとかそんなんじゃないの?」

「そ、そうなの?」

「そうそう!俺の治癒能力が覚醒しちゃったかなー?」

「そうなんだ……よかった。」


 ハルタは信じてくれてほっとする反面。簡単に騙せて心配する。


「……もう一回観てみよう。」

「ん?」

「未来を。なんか気になったからさ。」


 さっきみたいに残酷な未来が待っている可能性があるからな。



 ハルタは目を閉じ、未来を渇望する。


「フィール」


 身体と意識は切り離され、意識だけの存在となり、1時間前と同じように映像が流れ込む。


 映っていたのは椅子に座り本を読んだいる自分と、その後ろにアリルが立って、何かを教えてくれていた。


 本を見てみると、読めない文字で埋まっていた。これはアリーが俺に文字を教えてくれてる未来なのか?



 そこで映像は途切れ、屋敷の庭へと戻される。


「どうだったの?」

「俺がアリーに文字の勉強を教えてもらってた。」

「文字?記憶喪失で文字まで読めなくなったの?」

「実はな。だから町にいた時、文字が読めなくて苦労したぜ。」


 ハルタは苦笑しながら嘘を語る。

 忘れたのではなく、知らない。この世界に来てまだ二日目のハルタにはこの世界の言葉なんて知る由も無いのだ。


「なら、その未来通り文字を教えてあげる。」

「本当か?超助かるよ。」

「ううん。気にしないで。ここで働いてくれるんだからこのくらい平気よ。」

「そか。なら頼む。」



 そう言った後、屋敷の中へ入り、とある部屋に来た。


「ここは……書庫って所か。」


 中を覗くと、手前には机と椅子が置いてあり、その奥には無数の本棚が広がっていた。


「そこに座ってて。」

「うん。」


 指示通り、椅子に座り待機する。

 アリルは奥から何かの本を取りハルタの前に広げる。


「これは?」

「メサイ文字。多分ほとんどの国と共通してる。」

「メサイ……」


 メサイと言う言葉の意味がわからなかったが、とりあえず本を見てみる。


「––––わからん。アリー。これって何の本?」

「メサイ文字入門の子ども用の本。」

「子ども用ですらわからんのか……。」

「うん。私が小さい時によく使ってたの。」


 アリルは何か思い出したのか微笑む。その可愛らしい顔にハルタは見惚れていた。


「それじゃあ読み書き出来るよう教えていくから準備はいい?」

「ん。オッケーだ。」

「それじゃあね––––––。」



 それからハルタは文字を一通り見た後、ひたすら読み書きの練習をした。


 数時間が経ち、とりあえず今日の勉強はここまでとなって、ハルタは勢いよく伸びをした後、外の空気を吸う。


「英語が苦手なのと関係してんのか知らんけど、全然覚えらんねーな。」

「えいご?」

「気にしないでくれ。独り言だから。 ……そういえば魔法って何回も使えるの?」

「使えない。例えば、ハルタの体の中にある無属性のマナを全て使い切ったら、回復するまで出来ないわ。」

「へー。マナか……魔力みたいなもんか?」

「うん。そんな感じ」


 納得すると、ハルタのお腹から音が鳴る。


「–––––なんか、ごめん。」

「ううん。いいの。そう言えば起きてから何も食べてなかったもんね。ちょっと早いけど夕食にしましょうか。」


 アリルは微笑み、どこかへ向かって行く。ハルタも何もする事が無い為、アリルの後を追う。


「てか、昨日から何も食べてないな。」


 ハルタは腕を組み昨日の出来事を思い出す。


 異世界に来て、何もわからない状況の中、情報を集めてる最中に何者かに殺された。そして何でか蘇った。その後も情報を集めようとしたらこの子。アリル・スーベルと出会った。魔獣が町に現れ、彼女を守る為に腕を喰われかけた。と言うか俺、二日連続で死んでるんだが!?


 己の貧弱さに無気力に笑いながらもハルタはアリルの後ろをついて行った。




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