第3話 死の未来

 痛い。


 何かが俺の周りを囲っている。


 右腕、横腹、太股。次々と体の一部が引きちぎられていく。


 辺りは赤い液体が徐々に広がっていき、視界もぼやけていく。


 そこで映像が途切れた。




「–––––っ!」

「どうしたの?」


 突然息を切らすハルタに、アリルは心配そうに声をかける。


「い、いやなんでもないよ。」


 さっきの地獄の様な未来の体験を思い出す。



 ––––何者かに喰い殺された。

 あの嫌な感覚が今も体に残ってる。



「フィールって痛覚とかあるの?」

「さぁ?私も体験した事が無いからわからない。ごめんね。」

「いや、謝らないで。」


 アリルは知らないだけでおそらく痛覚やらの感覚はあるのだろう。それにしても嫌な未来だった。


「それで何を観たの?」

「–––––特に。何も無かったよ。」

「そうなんだ。」


 いずれ来る死の未来を隠す。


 言えるわけがない。何かに喰われてたなんて言えるわけがない。


「それより屋敷の外はどうなってんの?」

「小さな森。そこを抜けるとメルマに着く。」

「メルマ?」


 またしても聞き慣れない単語に首を傾げる。


「ん。ハイエル王国の住宅街。そこをメルマって呼んでるの。」

「へー。」


 頷くハルタだったが、未来の出来事を思い出し、アリルに尋ねる。


「なぁ、アリー。更衣室ってどこだ?」

「更衣室?案内するからついて来て。」



 2分の時間をかけ、庭から更衣室に着くと、スマホを取り出す。


「10時22分。何時間後にあの未来が………。」


 一旦アリルを外に出てもらうようお願いし、制服に着替えた後、更衣室を出る。


「アリー。1人でちょっと外を散歩してくるね。」

「わかった。気をつけてね。」



 屋敷を出るとメルマに続く一本道が森の中にあった。


 なぞるように一本道を進む。



「さっきからなんだ?これ?」


 所々木に繋がっている光る水晶に目を向ける。

 白く輝き、夜になると道全体が輝き、きっと幻想的なのだろう。


 この水晶の光からは悪を寄せ付けないような強い力を感じる。


「魔獣避けか?」


 魔獣が生息していそうな森だ。安全に道を進めるように対策をしているのだろうか?


 推測してみるが、知識が浅いハルタには、それははたしてそうなのかと確信は持てなかった。


「もし魔獣避けで合ってるなら一個分けて欲しいな。」


 死の未来が待っているハルタには身を守れる物ならなんでも欲しい状況だった。

 だが、さすがに盗る訳にはいかないとハルタの心がそう言っていた。


「–––––ってあれ?」


 現在、見てしまった未来を変える為にメルマに向かっていたハルタだったが、ある事に気づく。


「屋敷に篭ってた方が安全だったんじゃね?」


 屋敷は広く、そしてアリル・スーベルと言う心強い味方がいる。


「俺は馬鹿か……!」


アリルを心配させまいと町に向かっていたが、強いアリルに守ってもらえればよかったんじゃないのか?情けないが。


「–––11時10分。急いで戻るか。」


 少し不安になったハルタは駆け足で屋敷へ戻る。


 森がざわめく。


 少しでも不安に感じてしまうと、それが徐々に広がっていってしまい、やがて大きな不安になる。


 単に走って汗をかいているのか、冷や汗なのかわからないが制服に纏わり付き、気持ち悪い。


「––––っ!?」


 屋敷に向かって走り続けていた中、何者かに森の中に引きずり込まれる。


「があぁぁあぁぁああーーーっ!?」


 右足に痛みを感じて咄嗟に見ると、赤目をした犬の魔獣がハルタの足に喰らい付いていたのだ。

 それに気づいてしまった瞬間。痛みが倍増し、焼けるような熱さも感じる。


「あああああぁぁあぁぁあぁっっ!!」


 痛い。なんとかしてこいつを離さなければ!


「このっ!離れろ!!」


 左足で魔獣を蹴りつけるが魔獣は離れず、更に噛む力が増していく。



 ブチブチ。


 嫌な音が聞こえる。


「がぁっ––––!!」


 ハルタの右足が喰いちぎられたのだ。あまりの痛みに声が出せなかった。

 そしてハルタの抗う力を失う頃、気づけば辺りは魔獣に包囲されていた。


 右腕、横腹、太股。次々と体の一部が引きちぎられていく。


 気を失えればいっそ楽だったのだが、痛みがハルタを許さなかった。


「ああぁっ–––––!」


 涙が溢れてくる。


 何で、何で俺がこんな目に!!


 体を動かそうとするが、どこも動けない。だって無いのだから。


死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!!


 辺りは赤い液体が徐々に広がっていき、視界もぼやけていく。




 海堂春太カイドウ・ハルタは死亡した。


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