第4話 いつもより早いタイミングで手を振った
「お前なあ……」
「相手は男だったんだろ? 襲われたらどうする気だったんだよ」
「大丈夫だよ。見つからないように遠くから見てたし」
「顔は覚えられてないんだな?」
「うん」
またため息を吐くけど、今度は短い。安心したようなため息。仁一ってば心配してくれてたんだねえ。
——ダンッ。
ボールを一突き。シュートのモーション。——ポスッと入ってリングネットが揺れる。
「そういやさ、昨日のハシヴィーの配信見た?」
えー。心配の時間もう終わり?
「見てないよ」
「暇だったら見てみ。
それって、仁一が薦めてくれたからやってみたやつなんじゃないかな。だとしたらあんまり興味ないんだけど。
私は首を縦には振れないでいた。そんなに暇じゃあないんだってわけじゃあないし、仁一が薦めてくれるものに関しては貪欲に吸収していきたいって思ってる。Vチューバーだろうがなんだろうが。でも、ハシヴィーのことが好き過ぎて、語り出すと止まらなくなるのは嫌。
「マジで良かったわ。やっぱ声カワイイ」
ほら、
「今度見てみる。ところでさ」
特に話す内容もないんだけど、これ以上にやけ面を見たくなくて、適当に話を変えた。
その日の夜も、次の日の夜も、公園にはヘッドフォンマンは居なかった。
「そう言うわけでもう大丈夫だから」
学校の帰り道にそう言うと、
「もしかして見に行ったの?」
「そうだよ」
「ダメって言ったのに……!」
珍しく声を張っていた。怒ってるのかな。
「私は表子のことが心配だったからしたんだよう。なんでそんな否定的になるかなー」
私が目を細めて彼女を見ると、俯いてしまう。しばらくして肩が震え始める。
「ごめん。でも、危険なことはしないでね。私、
心配性だなー、もう。これくらい仁一も心配してくれたらいいのになあ。
仁一との会話を思い出す。ハシヴィーの話、したがってたなあ。結局見てないや。ってーか、そうだよ。表子には配信があるんじゃん? 私が居なくなっても、なんとでもできるんじゃあないの? どうせ私の存在意義なんて学校に居るときだけなんじゃあないの? 一人で居るのが惨めで嫌だから、ついて来てるだけなんじゃあないの? いまのも演技なんじゃあないの? ——なんて言葉が頭の中のブリッジを行進して行ったけれど、そのどの言葉を呼び止めることもなく、私は少しだけ早歩きになって、いつもより早いタイミングで手を振った。
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