第2話 そう、ゆっくり離して?

 表子に三桜みさくら公園のことを尋ねると「うちの近くだね」と言った。


「お化けが出るんだって」

「え……!」


 掌を下に向けて指先をピンと伸ばしている。背筋も伸びて、踵だけで体を支える。マスオさんみたいだなって思った。


「そんな……」


 余命宣告された花嫁のような反応。窓から差し込む西日が悲壮感を一層煽り、深刻度が増していく。マジか。この歳になってまだお化けを信じているとは。


「ごめんごめん! 多分なにかの見間違いだと思うよ?」

「そう、かな?」

「表子って本当に怖がりだよね。ホラーゲームのゲーム実況し——」


 表子の両手が私の口を塞ぐ。小さな目をギョロッと剥いて、緊張した顔を小刻みに震わせる。


「ダメだよ……!」


 首をコクコクと頷かせると、表子の手がゆっくりと口から離れた。


「ごめん、ついうっかり。まあでもいまのじゃあバレないでしょ」


 辺りをそれとなく見回してみる。教室に人は居るけど、みんな自分たちの話に夢中になっている。


未来香みらかちゃん以外には……ダメ」


 ぎゅっと服の裾を摘ままれる。


「わかった、ごめんね」


 彼女の手に手を添える。そしてゆっくり——そう、ゆっくり離して? 制服皺になっちゃうからお願い。


「お詫びに私が見てきてあげようか?」

「お化けを?」

「そ」

「ダメだよ!」

「だーいじょうぶだよ。居ないことを確認するだけ。居たら速攻で逃げるよ。私が足速いのは知ってるでしょ?」


 表子は私の手を握って首をぶんぶん振る。おさげがフォンフォン音を立てる。あ、ちょっと待って、ねえ、フケ飛んでるから。待って待ってやめてやめて。てーかこの前教えてあげたシャンプーとトリートメントちゃんと使ってんの?


「わかった」


 掌を彼女に向けて二度、三度と頷いて見せる。神妙な顔になることも忘れない。

 彼女は心底ほっとしたように胸を撫で下ろした。


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