22.味方

「これから、どうします?」

 史郎は追い詰めるわけではなく、静かに、促すように紗良に問いかけた。

 紗良は史郎の気持ちが分かり、感謝しながら答える。

「ご迷惑をおかけしますが、今夜はこのまま泊めてもらっていいですか?」

「それはもちろん……。そうだ、寝間着になるもの探してきますね」

「本当にありがとうございます」

「いえ。で?」

「はい……、明日起きたら家に帰ります。夫がいるかどうか分からないけど……」

「ご主人、心配されてるのでは?どこにいるか連絡しました?」

「いえ……、私も連絡してませんし、主人からも何もないので」

「それは……」

「いいんです。あ、茜亭のことは一切夫には話してないので、ここにご迷惑がかかることはないはずなので……」

「そんなこと気にしなくても……。ここまで来たら俺は紗良さんの味方です。出来ることがあればさせてください。って、それじゃ離婚の後押しすることになるから、ご主人にしたら敵っすね」

「そんな……」


 まさか史郎に応援するとまで言われるとは思っていなかったので、紗良は慌てる。しかし自分の正直な考えを伝えても、否定されず受け入れてもらえるというのは、これほどまでに心が強くなるものなのか。初めての経験に、戸惑いつつ嬉しさが込み上げてくる。しかもその相手は史郎なのだから。


「あの人が……、夫がすぐに納得するとは思いませんが、ちゃんと説明して、理解してもらいます。いえ、そうしなければ、新しい人生は手に入らない」

「新しい人生、ですか」

「はい。さっき、夫が勝手に全部決めてた、みたいな言い方をしてしまいましたが、それは裏を返せば大事な決断を夫に押し付けて責任から逃げていたようなものです。自分の感情を押しつぶすことと引き換えに、私は守られてた。でも、もうそれをやめます。守られなくていい、傷ついても苦労してもいいから、自分が思ったことを自分で決めて実行したいんです」

 話せば話すほど心に力が湧いてくる。紗良は、心の中では、すでに夫と決別していた。


 思っていたことを一気に吐き出して、急に疲れを感じて、ソファにもたれかかった。

「すみません、なんか一方的に語っちゃって……」

「いや、すごいなぁ、って思いながら聞いてたので……」

「全然すごくないです。今までがダメすぎたんです」

「なんでそんなに自分に自信ないんですか?」

 また別次元の問いを投げかけれられ、紗良は困惑した。戸惑っている様子が伝わってきたが、史郎は構わず続ける。


「俺にとっては定期的に店に来て静かにコーヒーを楽しんで行ってくれるありがたいお客さんで、最近はSNSで宣伝してくれて売り上げにも貢献してくれて。紗良さん、色んなこと出来てるのに、まるで自分は何もできないと決めつけてるみたいだ」

「何も……」

「うん。紗良さんが普通に、無意識にこなしてることで、周りの人が感謝してることたくさんあると思う。それをもっと認めましょうよ、自分で」


 史郎は紗良の目を見つめながら、これだけは伝わって欲しいと思いながら心を込めて語りかけた。


「あなたは、素敵な人です」

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