暗い部屋



 気がつくと部屋は真っ暗だった。


 帰ってきた時は、まだ夕暮れの寂しい日差しが部屋に差し込んでいた気がする。あれから何時間が経って、どれくらい涙を流しているのだろう?


 そう思うが時計を確認する気にはなれなかった。


 ベットで仰向けになり、ずっと天井を見上げている。なぜか頭のなかを占めるのは、昔の楽しい思い出がほとんどだった。いいかげん泣き飽きたのに、涙だけはとりとめなくこぼれてくる。


 そして言いようのない不安が押し寄せてくる。


 そのたびに由美の胸はひきつけを起こし、呼吸がままらなくなる。酸素不足の朦朧とした意識のなかで、さきほど言われた言葉がリフレインする。


 ――学校から何かしらの処罰が下るから、覚悟しとけ。


 処罰ってなんだろう? 停学だろうか? もしかしたら退学なのかもしれない。


 そうなったらお母さんになんて言おう? 自分の将来はどうなるんだ? 周りのみんなは自分のことをどう思う? 溢れる疑問をひとつも片付けられない。


 傷ついた心には重すぎる悩みで、ただその痛みに耐えることしかできなかった。


 真っ暗な部屋、真っ暗な家、真っ暗な自分の未来。


 家には誰もいない。休日ということで両親はどこかに出かけてしまった。ありがたい反面、すごく心細く感じる。誰とも話したくなかったが、一人ぼっちは嫌だった。


 机のうえで裏向きに置いてあるスマホが、音と共に何度か光る。


 それすらも怖くて、触れることもできない。


 暗い部屋に青白い光が灯るたび、誰かからの罵倒するメッセージが届いているような気がする。事実、それが送られてきてもおかしくはない。


 すると今度はスマホが着信を受ける。


「ヒッ――」


 由美は怯えた声をだす。逃げるようにスマホの電源を落とし、放り投げる。訪れた静寂にこのまま死んでしまおうかなんて考えるが、心の奥では本気で思っていない自分に失望する

 浅くて汚い人間だなと笑いたくなる。


 また涙が流れてきて嫌になった。どこにも逃げる場所がない。


 そんな時、インターホンが鳴らされる。自分とは無関係だろうその音は、どこか別世界のノイズに聞こえた。そのうち諦めるだろうとぼんやりと、あまり気にとめなかった。


 しかしピンポーン、ピンポーンとその音は続く。そのたびに現実に意識を引っ張られ億劫に感じた。


 宅配にしてもしつこい。今はとても人に合わせる顔じゃないのだ。ぼんやりと天井を見上げながら、意識が外に向く。


 さすがに諦めたのか、ついにインターホンが鳴りやむ。


 ほっとしたのもつかの間、しばらくしてまた鳴りはじめた。


 フラフラと立ち上がり、一階へ降りてモニターを見てみる。ちょうど人の肩しか映っておらず、顔は見えなかった。しかし、誰かなのかはすぐにわかった。


「――星さん?」


 通話ボタンを押して応答する。


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