第24話 オタクが二人揃うと姦しい

「ホントどんな確率なのかしらね、ロボット好きが二人揃うなんて!」

「全くだ!案外このゲームも捨てたもんじゃないな!」


銀色の【アーリーゴブリン】を撃退した俺とジゼルは意気投合。

フレンド登録をそこそこに済ませ、【サンディライト】北端に位置する街『ノックモール』へ移動することになった。

そここそ俺の最後の配達先であり、ジゼルが訪れようとした街だったらしい。


「悪いな、サイドカーに乗せてもらってさ」

「気にしない!乗用馬じゃこの子に並走するのも一苦労だしっ!」


目的地が一緒ということで、俺はジゼルのバイクに接続したサイドカーに座らせてもらっていた。

真っ赤な車体に跨るジゼルは楽しそうにフットギアを蹴り上げ、さらにシフトアップさせる。


「最高で600キロは出るけど、今日はこれくらいで我慢してねヒュージ!」

「十分だ!すげぇ気持ちいい!」

「でしょでしょ!」


生身の足では必死に駆けてもたどり着けない領域。

周囲を流れていく風景の速さと風の強さを余さず受け止める。

乗用馬とは比べ物にならないスピードへの快楽には、昂らずにはいられない。


「随分なモンスターマシンだけど、こいつはジゼルのマウントモンスターなのか?」

「そうよ、ペットネームは〈レッドブーツ〉」


俺に挨拶でもするように、エンジンが唸りを上げる。

やっぱりルルねぇが話してた通り、バイクもマウントモンスターに出来るんだな。

これほどのハイスペックマシンならば、移動もさぞ楽しいことだろう。


「欲しそうな顔してもダメよ。この子は私のなんだから」

「おっと残念。けど、これくらいのバイクはちょっと欲しいかも」

「【ダイヤリンク】ならバイクは流通してるわよ。〈レッドブーツ〉ほどじゃないにしても、そこそこのスピードなら楽しめるんじゃないかしら」


やはり機械関係の技術は【ダイヤリンク】に一日の長があるみたいだ。

国家ごとの特色を表すための差別化とはいえ、ここまでSFに振り切られると【サンディライト】とは別のゲームみたいじゃないか。

いずれ行ってみたいが、ここまでのメカニックを目の当たりにして、果たして俺は過呼吸にならずにいられるのだろうか?


「さっきの鳥はマウントモンスターじゃないのか?」

「鳥?……ああ、フェニーのことね?ちょっと待っててね、アンタにも挨拶させないと」


指笛を鳴らすと、赤い光が頭上に降りてきた。

火の粉を散らし、フェニーと呼ばれた不死鳥がバイクと並走する。


炎凰連装フェニック・アームズのフェニーよ。フェニー、ご挨拶は?」

『Kyu!』


短く鳴いた機械仕掛けの不死鳥、フェニーは俺の頭を軽くつついてくる。

痛くない、むしろくすぐったい。


「気に入られたみたいよ。よかったじゃない、ヒュージ」


そうなのか。

軽く手を振ると、フェニーは俺たちの遥か頭上へと舞い上がった。

どうやら、ああやって高高度から偵察をしてくれているみたいだ。


「ロボット好きとしては、鳥型のサポートメカには嫌われたくはない複雑なオタク心があったから安心したよ」

「分かる分かる!英雄シリーズ見続けてたから動物系のバディに憧れてたの!」

「気持ちわかるぜ!一度はライオンとかトラと合体したいって思ったことあるよな!だって胸に動物の顔があるのは、」

「「格好いいからだ!」」


お互いに身を乗り出しすぎて、あわやバイクが横転しそうになる。

走行中に立ち上がるのはご遠慮ください。


「やばいな、趣味が一緒だとセーフが効かないな」

「そうね、気を付けましょ。それで話を戻すけど、あの子はマウントモンスターじゃなくて、ウェポノイドっていうのよ」

「ふむ、差し詰めウェポンと接尾辞のOidをくっつけた造語か」

「正解っ。ヒュージレベルになると分かっちゃうわよね」


ロボット作品を嗜むものとしてはこれくらいの推察は朝飯前である。


「ウェポノイドはモンスターの中で、プレイヤーと契約してくれる高レベルのモンスターたちの総称なの。契約すると、名前の通り武装になって助けてくれるわ」

「ほうほう」


説明を聞くだけでワクワクしてくる。


「俺もフェニーみたいな不死鳥型を手に入れれば、あの大剣を手に入れられるのか?」

「武装の変化はプレイヤー次第よ。仮にヒュージがフェニーを従えたとしても、私と同じフォームには変化しないわ。同じ〈エクスマキナ〉だから、外見はメカメカしくなるとは思うけど」


だとすると、俺がウェポノイドを装備すると十中八九大楯になるだろうな。

……ん?

同じ〈エクスマキナ〉って言ったか?


「ジゼルって〈エクスマキナ〉だったのか?」

「気付いてなかったの?」


ほら、とジゼルは髪をかき上げた。

露わになった耳は、イヤーカフス型のデバイスが一体となっていた。


「女性型アンドロイド――ガイノイド型なんて実装されてたのか」

「うちのクランマスターがもっと女の子らしくしろって、わざわざ個人専用オートクチュールを作ってきたのよ」

「……そうなのか」

「あの人ったらホント親心ってのがないのかしら。人のリアル知ってるからってなにも身長まで殆ど一緒にしなくてもいいじゃない……!」


ジゼル、リアルの情報が駄々洩れでございますよ。

聞こえなかったことにしよう。


「ジゼルが使ってたのは、大剣と二丁拳銃だったよな?」

「私は【剣舞士ソードダンサー】と【銃謳士ガンシンガー】、AGIが伸びる二つのジョブに特化してるから、フェニーもそれに合わせて複数タイプ混合型になったのよ」

「ほほう」

「因みにまだ見せてないけど、他にも何種類かフォームチェンジできるわよ」


フェニーには悪いが、物凄くお手軽でお得だなと思ってしまった。


「うちのクランにはウェポノイド持ちは私の他にも何人かいるけど、全体で見るとウェポノイドと契約してるのは500人いないんじゃないんかしら?」

「【BW2】のプレイヤーは百万単位だったよな……」


現役プレイヤーでこの所有率とは。

どれだけハードな道のりなんだ、ウェポノイドって。


「そのうち3人がいるだけでも、ジゼルのクランってすごいんじゃないか?」

「【ダイヤリンク】でもちょっと大きめのアライアンス・クランだから人数も多いってだけ。中身は殆ど道楽人の違法集合住宅よ」

「それだと、お前も世捨て人に含まれるぞ」

「ロボットは道楽じゃないわ。人生よ」

「言い切るか」


それには心底同意するけど。


「もしヒュージがクランに所属するなら、紹介するわよ?」

「魅力的な提案をしてくるじゃないの」

「割と本気のスカウトだもの」


仮に俺が他国のクランに所属するとなったら、ルルねぇは何というだろうか。

……北国が焼け野原になる程度で済めばいいが。


「いっそ、私がアンタのクランに入ってもいいわよ?」

「俺はクランに入ってないんだな、これが」

「もったいないわね。クランに入ると、イベントとかコンテンツが解禁されるのよ?ぼっちクランでもいいから、作ったほうがいいわよ」

「あまりにも寂しすぎるパワーワードで殴ってこないで欲しい」


氏族クランを一人で背負わなければならない非業を思い、涙を呑んだ。


「ま、いちロボット好きのフレンドからのアドバイス程度に聞き流しなさいよ」

「ん、そうするよ……っと」

「見えてきたわね」


ジゼルは〈レッドブーツ〉のスピードを緩めた。

山あいに集落が広がっている。

【サンディライト】最北端に位置する寒村『ノックモール』だ。

トタン屋根の民家は異国情緒溢れながらも、懐かしい雰囲気を与えてくれる。

路面のところどころには、白い雪の名残が見えているのは万年雪国の【ダイヤリンク】に近いからだろう。


「何よこの村、全然人がいないじゃない」


ジゼルの言う通り、村の中には指で数えられるほどしか人がいない。

『ティミリ=アリス』の喧騒を知っている分、静寂が耳に痛いくらいだ。


「マップは正しいな、俺の配達エリアだ。ジゼルは?」

「私もここなんだけど……ちょっと困ったわね」

「どうしてさ?」

「調べものをしに来たんだけどさ。この様子じゃ期待できないわ」


最北端に位置するから、プレイヤーの足も遠のいているんだろう。

マウントモンスターがあってもかなり時間を食うからな、余程の物好きじゃないとここまで来るのも難しいよな。


「じゃあ、俺が手伝うぞ」

「え?」


俺の言葉に、ジゼルの丸い目が俺の顔に向けられた。


「……」

「なんだよ、その間は。言いたいことあるなら言いなさいよ、ほれ」


言いたいことはわかるけどさ。

レベル低い俺が何を出しゃばったことを、なんて思ってるんだろうな。


「ジゼルにはゴブリンから助けてもらったし、ここまで送ってもらったしさ。その恩を受けたまま、さようならってのは後味悪いんだよ」


俺がそう言うと、ジゼルは口を開いた。


「とか言って、本当は私と一緒にいたいだけでしょ?」

「ああ。できれば一晩中メカについてアツく語り合いたい」

「……まったくさ。嘘がつけない奴ね、アンタ」

「必要がないからな」


困ってるやつを見過ごせないのは藤宮家の血筋らしいしな。

それがフレンドならば猶更だ。


「言っておくけど、報酬は出ないわよ?」

「期待して言ったわけじゃない。なんだ、出してくれるのか?」

「女の子の気持ちだけで十分でしょっ」


あっかんべーと舌を出すジゼル。

余計に小学生っぽく見えて愛らしくあるぞ、そのエモート。


「まあ、好意を無駄にするのも気分が悪いし、アンタがそう言うなら、しょうがないわね」


〈レッドブーツ〉から降りたジゼルは俺の前に立って、手を差し出した。


「折角だから、アンタにも私を手伝わせてあげる。今決めたから、拒否なんて許さないわよ」

「なんの。望むところだ」


俺も手を差し出す。

不思議な縁は、もう少し続くようだ。

しかし……。


「……手、届いてないんだよな」

「ちっちゃいって言うな思うな風穴開けるわよ」


風穴を開けられたら堪らないので、俺は中腰になってジゼルの手を握った。

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ロボットアバターで戦いたい! 【すばらしき新世界Re:Birth】 R.U.R.U.R @bluesnow123

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