謎のウィルスによって異世界転移した三十歳サラリーマンが女子高生と同居することに
東雲まいか
第1話 心は三十歳、体は高校生
20××年春、人類史上最強のウィルスが地球上で猛威を振るっていた。それは地底に住む微生物からもたらされ、いつの間にか地上へ現れ人間の体を冒すようになっていた。それに感染すると体の筋肉が麻痺し、体の自由を奪われ、動くことが出来なくなる。自発呼吸すら困難に陥り、次第にやせ衰え、死に至らしめるという恐ろしいウィルスだった。人類は英知を結集してそのウィルスを撲滅させるため、新薬の開発に取り掛かっていた。しかし、まだその薬は開発されていなかった。
正木勇太、三十歳。彼は毎日朝早から夜遅くまで、勤勉に仕事をし毎日を送っていた。付き合っていた彼女はいることはいたが、一方的に別れを言い渡されてしまった。なかなか彼の良さに気付いてくれる女性がいなかった。現在の彼には彼女はいなかったし、結婚など考えてみたこともなかった。最近は、ウィルスが蔓延しているせいか、皆厳重に感染しないようにガードして外出していた。どこにウィルスがいるかもしれないので、ゴム手袋をしてゴーグルを付けている人も見かけるようになった。勇太も、家へ直行し冷蔵庫の中に買い置きしてあるものを食べ夕食を摂った。ああ、こんな恐ろしいウィルス、どこの国でもいい早く新薬を開発し撲滅してほしい。
勇太は食事を取り、風呂に入り、一人冷蔵庫から冷えたビールを取り出しごくりと飲んだ。しかし、いつもは美味しいはずのビールがあまり美味しく感じられない。
なぜだろう。体がふらつき悪寒がしている。
もしや! 感染してしまったのか!
勇太は体温計を取り出し、熱を測った。熱は四十度もあった。体の節々が痛い。手足に力が入らない。勇太はその場にしゃがみ込んだ。帰ってきたときは何でもなかったのに、どこにウィルスが潜んでいたのか。ひょっとして家の中にいたのか……
ああ、誰か助けてくれ!
最後の力を振り絞って救急車を呼び、玄関へ行き鍵を開けたが、その場に倒れ込んでしまった。必死の思いで手に保険証を握りしめ、着替えの入ったカバンを用意し
て……。
遠くで救急車のサイレンの音が鳴り響く。それに続いて救急隊員の呼びかける声が聞こえた。決まったセリフだ。
「大丈夫ですか! 大丈夫ですか!」
「……うううう……っ」
自分では何か声を発したような気がするが、はっきり言葉になっていたかどうかはわからない。
それから担ぎ上げられストレッチャーに載せられた。車の発信する音がして、どこかの建物の中へ運ばれた。
朦朧とした意識の中で、医師や看護師たちの声や、消毒薬の匂いがし、ガチャガチャと医療器具の触れ合う音がしている。ああ、病院には辿り着いたんだ。これで助かるだろうか。ほっとするのもつかの間、医師の診断が終わり耳元で若い医師の張りのある声が聞こえた。
「かなり重症です。でも最善を尽くしますので頑張ってください」
「……うう……」
何をどう頑張ればいいのかわからないが、こっくりと頷いた。それから人工呼吸器が装着されシューシューいう音や、ぶくぶくという水たまりのような音が聞こえた。
うっすらと開けた目からは眩しいライトが見える。ここは集中治療室という所だろうか。生まれて初めて入る場所だ。ここに入るということは、かなり重症なんだろうな。
助かるんだろうか。助からなかったら、たった三十歳で人生が終わってしまうんだ。長いようで短かった。まだやり残したことはあった。医師の声に交じって、若い看護師や、中年看護師の声が聞こえている。ちらりと見えたが、かなり美しい看護師もいたようだ。こんな人に面倒を見てもらうのも初めてだ。人生初で、ひょっとすると最後かもしれない。
彼は昏睡状態に陥っていた。
―――☠―――☠―――☠―――
「おい、いつまで寝ているんだ! 目を覚ませ!」
「僕を呼ぶのは誰ですか。お医者さん、看護師さん。僕は助かったんですか?」
「いや、俺は死神だ」
「死神? 僕は死んでしまったんですか?」
「いや、まだ死んではいない。お前にもう一度生きるチャンスをあげようと思った」
「どうすれば、いいのですか?」
「俺が今とは別の世界へお前の意識だけを連れて行く。体は別のものだ。そこで今以上に必死で生きるんだ」
「そうすれば助かるんですか?」
「助かるかどうかはお前次第。健闘を祈る!」
「待ってください。死神様!」
「……」
「死神様!」
これは意識のない世界での会話。医師や看護師たちには聞こえるはずもなかった。相変わらず彼は人工呼吸器につながれ、昏睡状態のままだ。病院では懸命の処置が行われていた。看護師が呟いた。
「先生、この患者さん、これからが峠ですね」
「ああ、助かるかどうかは本人の体力次第だ!」
「頑張って。きっと助かるわ!」
防護服を着た看護師は勇太に声を掛けた。
死神に言いわたされて、別の人生を生きることになった勇太。
体が軽くなり、手足が動き目が覚めた。体を横たえたまま勇太は自分の手を見つめた。
「動く。生きてたんだ」
布団から起き上がると体はさらに軽くなっている。軽々と起き上がり、足を見ると前よりもすらりとして、筋肉が引き締まっている。バレーボールをやっていた高校時代の体型に戻っている。
そんな馬鹿な!
勇太は部屋を見回した。そこは古い和室で畳の部屋だった。自分の高校時代の部屋ではない。手も足もほっそりしている。勇太は洗面所の場所を探し恐る恐る鏡を覗き込んだ。
「若い。何て若いんだ。これは高校時代の顔だ。なんてこった。高校時代に戻ってしまっているぞ。しかもここは誰のうちなんだ。ああ、人の気配がする。隠れなきゃ」
「ちょっとお。勇太君! 今起きたの。今日から一緒に学校に行くんだから、早く支度して!」
「学校ってどういうこと?」
「何言ってるの、あんたの両親一年間海外出張するから家であずかることになってるんじゃない。しっかりしてよ。で、家にホームステイしてるってことでしょ」
「そ、そ、そんなことに、なってたのか」
「まあ、でも今日から転校生ってことだから、あたしが色々教えてあげるから、ついてくれば大丈夫よ。私は水島ゆき、よろしくね!」
あ~あ、とんでもないことになっている。意識は三十歳なのに、体は高校生になってしまった。これから、大変だあ!
――――――♡―――――♡―――――♡―――――♡―――――
今のこの状況を跳ね返すすべがあったらいいのに!
という願いもあり書き始めました。今後楽しい展開になっていきます。
第二話以降もよろしくお願いします。
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