第17話 デネブのおかげ

 二体の巨人が一斉に俺の方を向く。


 俺は巨人の視界からデネブたちが消えるようにデネブたちから遠ざかりつつ、巨人を中心とした弧を描くように走った。


 懸命に駆けながらデネブを見る。



 デネブはイヤイヤをするように首を振ったが、俺も首を横に振ってそれを認めなかった。



 アンタレスがデネブの手を取り、無理やり駆け出した。


 俺の方に注意が向かっている巨人たちの背後に回り込もうとする。



 俺は立ち止まって二体の巨人に正対した。



 巨人は仲違いをやめたのか、二体仲良くドシンドシンと歩いて俺との間合いを詰めてくる。



 まるでビルが近づいてくるようだった。


 足が地面に降りるたびに俺の体が浮き上がるような振動が伝わってくる。


 向かって右側の巨人が棍棒を振り上げた。



 棍棒が振り下ろされる前に俺は一旦後ろに体をひくように見せかけて、一気に巨人の足下目指して走った。


 剣道の返し胴と同じ要領だ。


 特に自分より上背のある相手に対してよく使った技だ。



 すぐ背後の地面に棍棒が打ち付けられ、その爆発的な衝撃でたたらを踏む。


 仰ぎ見ると悔しそうに口をへの字に歪め、一つ目を怒らせるキュクロプスの顔が見えた。



 その横から別の棍棒が飛ぶような勢いで近づいてくるのが見えた。


 隣のキュクロプスが隙だらけの俺の左側面を狙っているのだ。



 やばっ。



 そう思って反射的にギュッと目を閉じる。


 しかし、いつまでも棍棒はやってこなかった。



 恐る恐る目を開くと、俺に棍棒を振り下ろそうとしていたキュクロプスは何故か俺に背を向けている。


 その向こうにはペンダントを固く握り締め、顔をこわばらせているデネブ。


 キュクロプスは急に頭を低くして四つん這いになった。


 そして巨大な顔をデネブにすり寄せる。



 何だ?



 キュクロプスは頭がおかしくなってしまったのだろうか。


 まるで飼い主に甘える犬のようだ。


 そしてもう一体のキュクロプスも相棒の変化に驚いているのか呆然と突っ立っている。



 デネブはキュクロプスの顔をよしよしと優しく撫でる。


 ペンダントは握り締めたままだ。



 キュクロプスの体が次第に小さくなってきた。


 そしてやがて普通の人間と同じぐらいになる。


 しかし、本人は気付いていないようで、デネブの膝もとににおいを嗅ぐように蹲る。



 アンタレスが小さくなったキュクロプスの隙だらけの背後に斬りかかる。


 キュクロプスはあえなく袈裟懸けに斬られ倒れた。


 ブシューッと気化が始まる。



 仲間をやられた巨大なキュクロプスが突然意識を取り戻したように棍棒を振り上げた。


 アンタレスが標的になっている。



「お前の相手は俺だ」



 俺は飛び上がり、キュクロプスの膝裏に斬りつけた。


 軽い手応えがあったと思ったら、顔に何か温かいものが飛んできた。


 手で拭うと緑の液体だった。



 脚が切断されてズッシーンという地響きと共にキュクロプスが横ざまに倒れる。


 まさか、軽く薙ぎ払っただけで巨人の脚が両断されるとは。



 すぐさまデネブが近づいてきて魔法をかけ、倒れたままキュクロプスは小さくなった。


 とどめとばかりにアンタレスがキュクロプスの胸に剣を突き刺す。


 間もなくキュクロプスの体は消え始めた。



「デネブ。ナイス。お前のおかげだ」



 俺が褒めると、「ま、まあね」とデネブは口の端を歪めて笑ったが、アンサーが飛びついてくると「うえーん。怖かったよう」とべそをかきながらアンサーを抱きしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る