第6話-2 王女救出命令

 おじさんは付き従う騎馬隊に向かって、止まれ、と示すように手を軽く上げて見せ、単騎でこちらに近づいてきた。



 それを見て瞬一とデネブが居住まいを正し、片膝をついて頭を垂れる。


 キツネのアンサーもデネブの脇に行儀よく座り直した。



「怪我をしたか、剣士アルタイルよ」



 馬上のおじさんに重々しい感じで声を掛けられ、俺はまごついた。


 え?

 え?


 両隣に助けを求めるように視線を飛ばす。


 アルタイルって俺の名前なの?


 アルってアルタイルのアルってことだったのか。


 アルタイルって、これも星の名前じゃん。

 


 アル。

 王様に失礼よ。

 ちゃんとして。


 さっさと返事しろよ。



 デネブと瞬一にせつかれ、仕方なく二人に倣って膝をつき「少し頭を打ちましたが、大したことはありません」と答えた。



「そうか。それは良かった。では、折り入って君に頼みがあるのだが聞いてくれるか」



 そう言って、おじさんは颯爽と馬から下りてさらに俺に近づいてきた。



 頼み?


 聞いてくれるかと言われても、この雰囲気じゃ、聞かないわけにはいかないじゃないか。


 デネブも瞬一もおじさんのことを陛下とか王様って呼んでいたな。


 この世界ではおじさんが王様なのか?


 さっき瞬一はポラリス陛下って言っていたけど、ポラリスって北極星のことじゃなかったっけ。



「剣士アルタイル」



 おじさん、いや、ポラリス王に名前を呼ばれて、デネブと瞬一に背中を押される。


 前へ出ろってことか。



 俺は一歩前に出て、その場に伏した。



「聞いているかもしれないが、先刻の魔族の襲来で、我が娘、ヴェガがさらわれた。お前はこれから仲間を募って密かにヴェガを捜し、この王国へ連れ戻すのだ。さすれば、お前を婿としてヴェガとの婚姻を認めよう」



 は?

 魔族?

 婚姻?

 どうして俺が?



 俺は地面を見つめたまま固まった。


 頭の中が混乱する。


 そもそも俺って剣士なの?



「アル!」



 背後の瞬一が押し殺した声で俺を呼ぶ。



 俯いたまま顔の角度を変えて背後の瞬一を見る。



 瞬一は俺を脅すような険しい顔で口を「ぎょ」と「い」の形を何度も作る。



 俺は仕方なく「御意」と答えた。



 ポラリスは満足そうに大きく頷くと、背後を振り返り「アスカロンを」と声を掛けた。


 控えていた従者が音もなく近づいてきて一振りの剣を両手で捧げ持ち、ポラリス王に手渡す。



「これは我が国に伝わる宝剣アスカロン。これをそなたに与えるゆえ、必ずヴェガを連れ戻せ」



 朗々と響く威厳に満ちた声で下命され、俺はからくり人形のように再度「御意」と答え、ポラリス王から両手で宝剣を受け取った。


 鞘には橙色の宝石が散りばめられており、柄にも一筋のオレンジのラインが縦に走っている。



「アンタレスも頼むぞ。アルタイルを助けよ」



 俺の背後で瞬一はびっくりするぐらい大きな声で「お任せください」とポラリス王に返事をした。



「陛下」



 デネブが腰を低くしたまま俺の横に移動してきた。

「ヴェガ様の身に着けていらっしゃったものをいただけませんでしょうか。においをもとに辿りたいと思いますので」



 ポラリス王は従者に「ヴェガのハンカチーフを」と声を掛けた。



 従者が赤いハンカチを捧げ持ち、デネブに手渡す。


 デネブはそれをアンサーの鼻にかざした。


 アンサーは思案気な顔でそのにおいをクンクンと嗅ぐ。



「我が国は現在隣国との関係が緊張状態にあり兵を割くことはできん。アルタイルには厳しい戦いになるだろうが、全身全霊で王女ヴェガを救い出せ」



 ポラリス王はそれだけを言い残して俺に背中を見せてしまった。


 そのポラリス王にまたどこかから「陛下!」と呼びかける者がいた。

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