第5話 夢だったのか、な
俺は、ものすごく悪いことをした気になってきた。
彼女の様子だと、彼女は俺のことをよく知っているようだ。
だとすれば名前を訊かれるなんてショックだろう。
俺は助けを求めるように瞬一の顔を見上げた。
「アル。どうしちゃったんだよ。いつもお前にちょっかいかけてくるデネブだろ」
常にクールな瞬一には珍しく場を和ますようにおどけた調子だ。
それほど俺の発言が場にそぐわないものだったのだろう。
それにしてもデネブって、ついさっき聞いた気がするんだけど。
「ちょっかいだなんて失礼ね、アンタレス」
アンタレス?
デネブもアンタレスも確か星の名前じゃなかったか。
何だ、ここ?
一体どこに来ちゃったんだろ。
そう思って自分の右手を見下ろしたら、犬のような動物が俺の手の甲をぺろぺろと舐めていた。
「うわっ」
反射的に手を引っ込めると、その淡い茶色の体毛を帯びた尻尾の長い動物は大人しく座ってきょとんとした顔で俺を見つめる。
「何、この犬」
「犬じゃないわ。キツネのアンサーよ。いつもあたしとアンサーは一緒にいるじゃない」
「本当に分かってないみたいだな。頭でも打ったか?」
アンタレスと呼ばれた瞬一が屈みこんで心配そうに俺を見つめる。
「本当にそうかも。さっき、雷撃系の魔法を食らって吹き飛ばされたあたしをアルが抱きとめてくれたんだけど、そのまま一緒に倒れちゃって。そのときアルが下敷きになっちゃったんだ。このあたりってゴロゴロと大きな石が転がってるし」
そう言ってデネブが俺の後頭部を手でさする。
「イテッ」
デネブに触られたところがものすごく痛くて、思わず顔をしかめる。
そこはさっき、瞬一に教科書の角で殴られたあたりだ。
「アル……」
デネブの手が赤く濡れていた。
俺も自分で後頭部に手を回す。
ぬるっとした感触とともに頭に激痛が走る。
見てみると、手にはべっとり血がついていた。
そして急にくらっと視界が回転して意識が遠ざかっていく。
あ、そうか。
なるほど。
これは夢だったんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます