第2話 友人・瞬一による後頭部への攻撃再び
「ちょっと、手首が痛くて無理だわ。勉強のしすぎかな」
俺は顔をしかめ、痛くもない右の手首を左手でさすった。
「嘘つけ」
瞬一は呆れた表情で腕を組み、仁王立ちで俺を見下ろした。
「琴美が話があるんだってよ」
井沢琴美。
その名を聞いて俺は嫌な予感に襲われ、もう一度机に突っ伏した。
「
ゴツン。
また、後頭部に衝撃が加えられる。
たまらず俺は顔を起こして瞬一をにらみつけた。
「いってぇな。教科書の角はやめろっつうの」
「お前が寝るからだ。お前の彼女が呼んでるんだから、さっさと会いに行ってやれよ。自然なことだろ」
「俺は眠いんだよ。お前と違って頭の出来が悪いから、ここんところ一夜漬けの連続で疲れてるの」
「普段から勉強しとけばいいんだよ」
「それができたら苦労しないっつうの」
瞬一は剣道部の主将でありながら、学業も校内トップクラス。
あの厳しい練習をこなして、よく勉強する体力が残っているものだと感心してしまう。
「とにかく」
瞬一は机に手をついて至近距離で俺を見つめた。
「話ぐらい聞いてやれよ。その後に家に帰っていくらでも寝ればいいだろ」
正論を示されて思わず返答につまる。
しかし、今はどうも琴美に会いたくない。
会えば、良くないことが起こりそうなのだ。
そうしたらその後には心がもやもやして安穏と眠ることもできなくなる。
瞬一は困った顔をしている俺を見てため息をついた。
「どうやら本当にうまくいってないみたいだな、お前ら」
返す言葉がなくて、俺は腕を組んで意味もなく正面の黒板をにらみつけた。
琴美とは中学の時から付き合っている。
つまり、もう三年だ。
マンネリと言うのだろうか。
最近急に琴美と一緒にいても話が弾まなくなった。
どこか雰囲気がぎくしゃくする。
琴美がよそよそしくなった気がしてならない。
その琴美が改まって話があると言う。
別れ話。
いよいよ来たかという予感が俺をかたくなにする。
俺は琴美のことを嫌いになったわけじゃない。
三年前と同じ気持ちではないかもしれないけれど、あいつと一緒にいることが俺の生活の一部になってしまっている。
何も喋らなくても、座ってもたれ合うだけで心がゆったり落ち着く。
三年間も彼氏と彼女をやってきたのだ。
その関係が急に壊れたら、学校で、帰り道で、休日のコンビニで顔を合わせたときにどう振る舞えば良いのか。
琴美が俺以外の男と肩寄せ合って歩いているのを見かけたら、俺は、俺は、俺は……。
廊下を誰かが走ってくる音がしたかと思うと、教室に恵里が飛び込んできた。
鳥谷恵里。
一学年下の琴美の幼馴染だ。
そして最近瞬一が付き合い始めた彼女でもある。
「瞬君。もう言った?」
恵里は不安そうな表情で俺と瞬一の顔を交互に見る。
言うって何を?
俺はそういう顔で瞬一を見上げた。
「有也。琴美は城のプラネタリウムで待ってるってさ。伝えたからな」
「は?」
「早く行ってくださいね」
恵里は俺に念を押してから瞬一の袖を引っ張って教室を出て行った。
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