天球物語 ～プラネタリウムに呼び出され、別れ話かと思ったら、異世界に飛ばされた

プロローグ

第1話 友人・瞬一による後頭部への攻撃

　ガタン、と派手な音がして机が揺れた。

　何だ？と思った瞬間に俺は二つのことに気が付いていた。

　一つ目は、教室の机に突っ伏して眠ってしまっていたこと。

　もう一つは、机が揺れた原因は、俺が机の脚を力任せに蹴ってしまったからだということ。

　何の罪もない机を蹴飛ばした報いで、右足のつま先がジンジン痛い。

　クスクスと押し殺したような笑い声が聞こえる。

　クラスメイトの女子が俺のことを見て笑っているのだろう。

　恥ずかしいったらない。

　すっかり目は覚めてしまったけれど、もう暫くは眠ったふりをして、この居たたまれない時間をやり過ごそう。

ゴツン！

「イテッ」

　いきなり何かが後頭部に落ちてきて、その痛さに俺は反射的に顔を起こしてしまった。

「ゲッ。きったねぇな、お前」

　そこには現国の分厚い教科書を手にした安田瞬一が眉をひそめて立っていた。

　彼の視線の先は俺の机の上だ。

　慌てて視線を落とすと、拳ほどの大きさの水たまりがそこにはあった。

　まさか、よだれ？

　俺は慌てて両腕の袖を使って、それを拭きとる。

「余計にきたねぇって」

　瞬一の容赦ない言葉に我に返って周囲に視線を飛ばす。

　窓際にいた女子二人がこちらを見ている。

　その顔はどちらも、見たくはないものを見てしまったというやりきれなさを浮かべていた。

　俺は思わず顔を赤らめた。

「何だよ、いきなり。昼寝の邪魔すんなよ。頭蓋骨が陥没したらどうしてくれるんだよ」

　破れかぶれの俺は瞬一の暴行を非難することしかできない。

「お前の頭は親父さんの竹刀で鍛えられてるだろ」

　俺の父親はこの田舎町で剣道の道場を開いていた。

　俺も瞬一も幼い頃から道場で厳しくしごかれてきた。

　俺の父親は子ども相手でも加減はしない。

　いや、していたのだろうが、子どもにはそう思えないほど面打ちが強烈で、打たれるたびに目から星が出るほど痛かった。

　あれに比べれば、教科書の角の一撃など蚊が刺したようなものだ。

　だが、父親の話題は今の俺には面打ちよりも辛い。

「何か用か？今日は部活ないんだろ？」

　一学年上の三年生が夏の大会で引退して、瞬一がこの夏から剣道部の主将をしている。

　部活があるならば主将が放課後に制服のままで校舎にいるはずがない。

　今日は中間テストの最終日で、本来なら部活は今日から再開だ。

　しかし、古びた武道場の補修がこのテスト期間中に行われていた。

　今日までは立ち入り禁止とホームルームで担任が言っていた。

　従って武道場で剣道部は活動できない。

「あったら来るのかよ」

　実は俺も剣道部に在籍している。

　しかし、二学期に入る前から参加していなかった。

　当初、瞬一は俺に部活に来るようにしつこく誘ってくれたが、最近は諦めたのかそういうこともしなくなった。