第13話 二人っきりの遺跡探索
ゲートをくぐり、アイゼンの館にたどり着くと、この日はシルヴィが迎えに来てくれた。
アイゼンとソフィアは中央の貴族の城へと招かれているらしく、その準備が忙しそうだとのことだった。
メイドのミクはというと、朝食の後片付けをしているところだった。
ちなみに、この日の俺の朝食はカップラーメンだった……だって、毎日上流階級の人と朝食を一緒に食べるのはさすがに気疲れしてしまうから。
館には余程のことがない限り、誰か一人は残らないということで、この日留守番するのはメイドのミクだ。
獣人のシルヴィが、約束通り近くの遺跡を案内してくれる。
その様子を撮影するために、この日はスマホの他に、ちょっと値の張るコンパクトデジタルカメラを用意していた。
これは特に暗いところがきれいに映るので評判であり、遺跡内部を撮影するにはうってつけだ。
と、ここで、獣人とはいえ、年頃の美少女であるシルヴィと二人っきりで、薄暗いという遺跡の中を探索するって、良いのかな……と思ったのだが、よく考えれば彼女は接近戦闘のエキスパートだ。俺が変なことをしようとしただけで、おそらく半殺しにされてしまうだろう。
アイゼンたちはまだ出張の準備に時間がかかっているようだったので、ミクに見送られながら、俺とシルヴィだけで遺跡探索のたびに。
彼女はいつもにもまして耳をピコピコ、しっぽをフリフリさせて上機嫌だ。
「ショウさん、今日は楽しいプチ冒険の旅ですよ! 道中、危険な……まあ、スライムですけど……魔物が出てきますので、注意してくださいね!」
と、まったく警戒心のない満面の笑顔でそう忠告してくれた。
屋敷を出て二百メートルほど歩くと、緑色のスライムが出現してきた!
それに対し、俺は武器として伸縮可能な特殊警棒を持ち込んでいたので、これを伸ばして戦ってみる。
すると、一発ではポヨンと飛んで行っただけだったので、近づいてきたところを両手で思いっきり殴りつけてみると、パシュンと弾けてそのまま蒸発し、後には黄色の小さな魔石だけが残った。
「ショウさん、おめでとうございます! 初めての狩り、成功ですよ!」
シルヴィがそう誉めてくれるが、結構苦戦した。
「最初はスライムでも怖いものなのですが……ショウさんはいきなり戦えるみたいですね。頼もしい限りです!」
いや、絶対に「大したことない」って思っているに違いない。
そのまま歩きながら、
「どのぐらい歩けばその遺跡は見えてくるんだ?」
と尋ねると、
「もうすぐ着きますよ。あれです!」
と彼女が指さしたその先に、大きな岩がいくつも積み上げられている――全体的には家一軒ぐらいあるような――よく見れば人工的な構造物にたどり着いた。
「これが、遺跡?」
「はい、そうです! 下に降りる入り口があるんです!」
そう言われて、今見えているのと反対側のほうに回り込むと、日本の地下街に降りるような階段が見えた。その先は、黒っぽい大きな石の壁で閉ざされているように見える。
シルヴィに案内され、そこを下りて石の扉の前にたどり着く。
彼女が一言、
「エルメン!」
と呪文のような言葉を投げかけると、丈夫そうだった黒石の扉がゆっくりと左右に開いた。
「……こんなにあっさりと遺跡にたどり着けるものなのか?」
「はい、だってアイゼン様は、この遺跡が気に入って、近くに館を立てたのですから!」
「なるほど、そういうことか……」
あの大賢者と称されるアイゼンが気に入ったのならば、なにか凄いものが残されていたのだろう……そう思って遺跡の中を見ると、ぼんやりと明かるかった。
シルヴィに促され、足を踏み入れ、
「うおっ……」
と思わず声を出した。
その空間の広さは、高校の時の体育館ぐらいだろうか。
天井は高く、ただっぴろい。
壁面には、ところどころ鎧をまとった人間や、それと戦う魔物の彫刻のようなものが掘られている。
空間の真ん中の高さぐらいまでそそり立つ、直径30センチほどの幾本かの柱の上に、水晶球のようなオブジェクトが置かれ、まるで俺たちのことを迎えてくれたかのように、淡く、白い光を放っていたのだ。
俺は思わずコンデジのナイトモードにて夢中で撮影した。
スマホでも、動画モードにしてシャツの胸ポケットに入れておく。これで少しだけ飛び出たスマホの先の方にあるカメラが、自動撮影してくれる。
そしてシルヴィの案内で、この迷宮の最奥へ。
「……この遺跡は、規模としては決して大きくはありません。ただ、アイゼン様によれば、ある大きな可能性を持つ特殊な魔力が秘めているということです。しかしそれを起動させる方法が分からないらしいです」
「へえ……あの大賢者と呼ばれているアイゼン様でもわからないのか……」
そんな会話をしながら、最奥の祭壇? を眺めた。
小さく、細かな彫刻が幾重にも掘られている。
そしてその手前……今、俺たちが立っている箇所は、直径二十メートルぐらいのステージのようになっている。
「……確かに、神々しく見えるけど、どのぐらいの価値のあるものだろうな……」
「アイゼン様の話では、ショウ様がいらした『異世界への扉』に次ぐぐらい神秘的なものらしいですが、どうも、これを起動させるためには、純白の強い光が必要らしいのです。それは今や失われた魔法術……あの柱の上に残されている淡く、白い光も、どうやって光っているのか誰にも分りません」
「そうなのか……って、白い光なら出せるけど?」
俺はそう言うと、リュックに入れて持ってきていた、強い純白の光を出すLED懐中電灯を取り出してつけて見せた。
「えっ……うそ……凄い、凄いです! こんな真っ白な、こんな強い光、初めて見ました! アイゼン様にもこんなの無理です!」
しっぽをパタパタと激しく揺らして興奮するシルヴィ。
そういえば、俺たちの世界でも、蛍光灯が登場するまで白い光は出せなかったと思う。ましてや、懐中電灯として持ち運びできるものなど、白色LEDができるまで無理だったのではないか……いや、小さな持ち運び蛍光灯はあったかも。
「ショウさん、ものは試しです! その白い光、祭壇に当ててみてはどうでしょうか!?」
「……なるほど、何か変化はあるかな……」
特に気にせずに、シルヴィの提案通りに白色LEDの光を祭壇に当ててみた。
すると、…幾何学的な文様がびっしりと刻まれた、薄緑色の淡い光が、俺たちが乗っているステージ上を取り囲むように幾重にも出現した。
「……こ、これ……まずいですっ! 凄い魔力……多分、古代の高度な魔法陣ですっ! 何かの魔法の仕掛けが発動しちゃいました! ショウさん、逃げ――」
彼女の言葉が終わる間もなく、一方通行の強制転移魔法陣により、俺とシルヴィは千キロメートル以上も遠くへ弾き飛ばされてしまった――。
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