第14話 崖上の二人
館の近くの遺跡内にて、白色LEDの光を祭壇に当てたところ、薄緑色の魔法陣に囲まれ、俺は軽いめまいを覚えた。
ふらり、とよろけたが、なんとか踏ん張ったところに、シルヴィが倒れこんできた。
どうにか受け止め、
「シルヴィ、大丈夫か!?」
と声をかけたところ、
「……あ、はい、大丈夫ですっ! すみません、ちょっと立ちくらみしちゃいました!」
慌ててそう言いながら離れた……うん、しっかり立っているし、俺と同じく、ほんの一瞬よろけただけだろう。
「えっと……なにがあったんでしょうね……あれ? この広間の様子が変わったような感じがしますね……なんか、狭くなったような……祭壇も消えてますっ! 光を載せた柱も……少なくなってます!」
シルヴィの声は、めずらしく焦っていた。
確かに、遺跡内の様子ががらりと変わってしまっている。
全体的にこじんまりとした感じになり、淡く白い光を載せた柱も、2本だけになってしまっている。
祭壇は消え、立っているステージも小さくなっていた。
「これは……ひょっとしたら、隠し部屋か何かにステージごと移動したのだろうか?」
「そうですね……ちょっと揺れたような感じ、しましたからね……とりあえず、向こうに扉が見えますから一旦出ましょうか。さっき起きた現象も、アイゼン様に見てもらいたいですし……」
冷静そうに話すシルヴィだったが、声が少し上ずっている。
「……どうしたんだ? 何か気になる点でもあるのか?」
扉に向かって歩きながら、隣にピタリとくっついてくる彼女に、ちょっと違和感を感じた。
「気になるっていうか……あの、さっきの感覚が、アイゼン様の魔法で空間移動するときとちょっと似ていたので……まさかとは思うのですが……」
「魔法で空間移動? アイゼンさん、そんなこともできるのか?」
「はい、あの方はこの世界でも屈指の大魔導士でもありますから……それより、今はこちらの心配をしなけばなりません……」
薄暗い遺跡の中、重そうな石の扉に近づくにつれ、シルヴィの表情は、ますますこわばっていく。
この時点では、彼女の言葉の意味がよく分からず、事の重大さが理解できていなかった。
そしてついに、扉のすぐ前まで来た。
シルヴィは、俺の隣で、少し震えるように見えた。
「……変な音が聞こえます……変な匂いがします……」
「……変? どんな音で、どんな匂いなんだ?」
彼女は獣人なので、俺などよりずっと環境の変化に敏感だ。
「……分からない……今までに聞いたことのない音、匂いです……多分扉を開けると、ショウさんにもわかっていただけると思います……ただ、ちょっと怖いです。ショウさん、念のため、少し下がっていてください。あと、すぐに飛び退くことができるようにしてくださいね……」
シルヴィはそう言って、荷物の中から三本爪付きの籠手を装備した。
扉の向こうに、危険な敵がいるかもしれない……そういうことだ。
そして彼女は、開くかどうかわかりませんが、と前置きしたうえで、
「エルメン!」
と呪文を唱えた……すると、前に遺跡に入って来たときと同様、重そうなものを引きずるような音がして、ゆっくりと扉が開いた。
刹那、日の光が入り込んできて、少しの間目が眩んだ。
同時に、懐かしい匂いを感じることができた。
「これは……この匂いは……いや、まさか……」
すぐに明るさに目が慣れ、そしてその光景に愕然とした。
隣のシルヴィも、目を見開き、呆然としている。
俺たちが居る場所は、切り立った崖の上だった。
そして眼下には、飛沫を上げて打ち寄せる波と、真っ青な青い海面、さらに向うには水平線がずっと続き、入道雲まで出現していた。
「……下に見える、あのたくさんの水は……もしかして……」
「……そうか、シルヴィ……君は初めて見るんだな……そう、あれが『海』だ」
「……『海』……私、絵本でしか見たことありません……」
「ああ……っていうか、ここ、どこなんだろうか……本当に、空間移動したようだな……」
俺の言葉を聞いて、シルヴィは崩れるように、その場に座り込んだ。
「……ごめんなさい、私のせいです……私が、不用意に魔法陣が出現するように誘ってしまったせいで……多分、取り返しのつかないことになってしまいました……」
彼女は、涙声になっていた。
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