第19話 トキvs龍馬

「助けて!!」

サラは無意識のうちにペンダントを握りしめると…

再度、龍馬に助けを求めた。


すると突然…

シグレの体が光り始めたかと思うと、あの時計の紋章をかたどる。

以前のように、フッと暗くなったかと思うと風がすり抜け、1年ぶりにトキが現れた。

そう…9月も中旬を過ぎ、オーストラリアでは桜の花が開花し始めていたのである。


「な~んか変な場面に出くわしちまったなあ…」

トキは相変わらず、面倒くさそうに口を開いた。


刀を抜いている龍馬を見て、闘いの予感がしたトキ…

それに対し、一連の状況を見た龍馬は…

「ポタ…ポタ…」

今までかいたこともないような、冷たい汗が噴き出ていた。


「この男、間違いなく出来る!!」

剣の達人である龍馬は、トキのただならぬオーラを感じ取っていた。


時の魔法を司る桜の精霊…

その力は、とても生身の人間が到達できるレベルではない!!


それを感じつつも…

ジリ…ジリ…と距離を詰める龍馬は、初太刀をどうするか考えた。

しかし…


相手を油断させて近づき、そして抜刀!

腹部から心臓を狙おうとしたが…

「この男に小手わざは通じぬようじゃな…」

トキが放つ凄まじい威圧感に、直感的に判断した。


千葉道場の免許皆伝、北辰一刀流の達人である龍馬…

正攻法で構えた剣の先は常にユラユラと揺れ…

その奥から静かに相手を見据えている。


風がやみ全ての時間が止まったかと思った一瞬に…

龍馬は物音立てずスっと飛び込むと、振りかざした刀を真っすぐ振り下ろし斬りかかった。

「早い!!」

あまりにも早い一連の動作に、かわせないと悟ったトキは…

「スローム」の魔法を唱えた。


残像すら見えない速さの竜馬の刀が、今度はスローモーションのようにゆっくりと振り下ろしてくる。

しかし効果はわずかに1秒間である。


この魔法は力を貯める必要がなく即時に使えるが、効果時間が短いという欠点がある。

刀を時の杖ではじくと、流れるような動作で反転し、今度はトキが竜馬の胴を狙った。


「!! なに?」

確実に斬ったと思った瞬間に刀をはじかれた龍馬…

しかし瞬時に相手の剣の流れを読むと、はじかれた腕を下ろし、刃の裏でトキの杖を防いだ。

まさに間一髪である…


「ほう~… これをかわす人間がおるか…」

トキは今の攻撃をかわされた事に驚きを隠せなかった!

魔法を絡めた連携攻撃をかわした人間は、今まで一人としていなかったのである。


しかしトキにはまだ奥の手の魔法が沢山ある…

そして余裕のある口ぶりで、こう付け加えた。

「フフフ…次は少し本気を出そう…かわせるかな?」


龍馬はトキがまだ全く本気を出していない事を、動物的な本能で悟った。

斬ったと思った瞬間に訳も分からず剣がはじかれ、死を覚悟させるような反撃が来たからである。


人とは思えぬその動きに、間違いなく次はやられる。

そう悟っていた。


「自らは動かぬか…いや動けぬのであろう…」

「まんざらバカではないようだな…」


間合いを取り、魔法の力を貯めるトキ…

「愚かなる人間よ! 死ぬがいい…」


トキが蓄えた魔法力を呪文に変換しようとした瞬間…

サラが間に入ってきた。


「お願い、龍馬さんもうやめて!!」

「私たちはどんな事があっても、貴方の事は誰にも言わない。」

「万が一、幕府が襲って来てもトキが守ってくれるわ!!」


そして、龍馬の心を動かす言葉を放つ…

「舞ちゃんとの約束を守って!!」

そこまで言うとサラの目から涙が溢れ流れた。


サラの心を感じ取ったトキは…

「ふう~ 俺の主はこう言っているがどうする?」

「まだやるかい?」

トキは杖を竜馬に向けると、戦意の確認をする。


「い…いや… わしはまだ死ねん…」

「まだやる事が、山ほどあるきのお~」


龍馬は剣の達人として、斬られて死ぬことに抵抗はなかったが…

今の確実な死より、やらねばならぬ事が沢山あり…

その使命感が龍馬を生きるほうへと導いていた。


「ほ~… そ~かい… じゃあ今回はここまでだな!」

トキはいささか拍子抜けしたが、そう言うと貯めていた魔法力を開放し杖を下ろした。


「せっかく出てきたことだし、今年は下界を楽しむかのお~」


前回、用事が終わるとすぐに戻っていたトキであったが、今回は戻る様子がないらしい。

と言うより、龍馬に何かを感じたのであろう…

トキはこの男に今まで会った者にはない、面白さを感じていた。


「ふ~~ 良かった!!」

「もう…いるのは構わないけど、あまり派手に動き回らないでよね」

サラはトキに少し慣れてきたのか、注意を促すが…


「チッ…小娘の分際で…」

トキは一応、自身の主であるサラには逆らえないが、相変わらず上から目線で感情をあらわに心の中で呟いた。

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