第20話 剣の修行

ホッと胸をなでおろすサラ…しかしその様子を目を丸くして見つめる目がある。

そう、ジョージである。


半開きになった口をようやく動かすと

「どうなってるだ? どういうことだこれは?」

わけわからず、混乱した頭で質問して来た。


「あ、ゴメンゴメン…パパには言ってなかったけど…」

「このシグレの本当のご主人さんで、うちの桜の精霊さんでトキって言うの」

「丘の上の桜の言い伝えはパパも知ってるよね?」


「も…もちろん…聞いた事はあるが…単なる言い伝えだと思っていたのに…」

ジョージは次から次に起こる不可解な出来事に混乱し、正常な判断が出来る状態ではなかった。


「お前は知らんだろうが、2歳のころ桜の横の泉で溺れそうになったのを助けたのは俺だぞ!」

「呼び出されているわけじゃないが、真横だったんで時の魔法で助けてやったのさ」

「今さら言う事ではないが、感謝するんだな小僧」


相変わらず、どんな人でも小僧、小娘扱いのトキであった…


「時の魔法? なるほど、そりゃ勝てん…」

話を聞いていた龍馬が口をはさんだ。


「まあ、人間にしては頑張った方だ!」

トキは杖を振りかざすと、自慢げに上から目線でさとす。


「わしはこれから、この武器を長州で売って来る」

「その帰りに米を積んでくるが、それまでまっちょってくれんがや?」


龍馬はジョージにそう伝えると、時間を惜しむように急いで桂たちの元に向かった。

6日ほど萩の町を散策していると、龍馬は沢山の馬車に大量の米を積み戻ってきた。


「すまんの~ 思ったより遅くなってしもうたがや」

そういうと、急いで米をジョージ達の船に積み替える。


「勝さんに聞いた話だと、これくらいの量は積めるはず…」

そう、以前勝がサラに船と航海の事を詳しく聞いていたのは、この為だったのである。

ただ、そこにサラも一緒に来たのが、勝の誤算だった。


残りは龍馬の船に積み、3隻で薩摩に向かった。


来る時とは違い、潮の流れに逆行するため、思ったより進まない…

しかも長崎の沖を通るのは危険とみなし、大きく五島列島の外側を迂回する航路…


トキは退屈であった…


フラフラ~と龍馬の船に飛んで行くと、剣の稽古中の龍馬が見えた。

「おうおう、やっとるやっとる」


トキは龍馬の前に降りると…

「おーい龍馬よ、暇で体もなまるし、ちと俺とやってみんか?」


相変わらず前に立つだけで、そのオーラに押しつぶされそうになる。

「この男…」

龍馬は稽古でも普通に斬って来るんじゃないか?と身の危険を感じていた。


「そりゃ構わんが…剣は危険だ、竹刀で良いかのお~?」

「竹の剣か…ま、構わんが拍子抜けだな」


トキは一瞬のスリルがたまらく快感だったが…

やはり普通の人間の思考とはかけ離れていた…


「どこからでもかかって来るがいい」

ダラっと竹刀を無作法に構えるトキ…

龍馬が意を決し襲い掛かる。


面、胴、籠手…

元々変則的な動きの龍馬!


相手の意に反した虚をつく剣も取り入れるが…

その剣を、流れる水のように無駄なく受け流すトキ。


「これは、トキの拳」

(北斗の拳の作者様、ゴメンなさい)


「クソッ!! 当たる気がせん」

「これならどう(胴)じゃあ~~?」


シャレを交えながらも、龍馬は覚悟を決め…

胴を見せかけにして虚をつきスッと上段に構えると、そのまま渾身の力で振り下ろした。


「!? 当たった!!」

龍馬が決めたと思えたトキの姿は、残像だった…


「バシッ!!」

2つの鈍い音がする。


1つは龍馬が床を叩いた音だが…

風がすり抜けたかと思うとと同時に、龍馬の横腹に痛みが走った!!


「シャレのお返しや!」

龍馬の真後ろから声が聞こえる…

トキは素早い動きで面をかわすと、すり抜けざま胴をさらっていった。


「いたたた…こりゃどうもならん」

「この前は戦わなくて正解じゃったわい」


龍馬は参ったとばかり、脇腹を抑え竹刀を下ろした。


「フフッ…面白い男よの~」

トキが今まで戦った人間の中で、この男は群を抜いて強い!


その男があっさり負けを認めた瞬間にトキを見た目は…

ゆったり流れる清流のように透き通っていて、なんとも不思議な感じだった。


「この男の意思は固い…」

「この先どうなるか楽しみだな…」


トキは心の中で呟いた。

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