第18話 密輸

数日後、幕府からの許可がおりると、グラバーはジョージの元を訪れ、更に詳しく説明した。

しかし、誰からの依頼なのかそれだけは何度聞いても教えて貰えない。


余程の事なのか?と思いつつ…

ジョージは言われた通り上海に行くと偽り、真っすぐ西に向かった。


五島列島の港に着くと、言われた様に停泊し灯りをともした。

こちらに男が近づいてくると、ぶっきらぼうに話しかけてくる。


「月は欠けるが…」


その言葉にジョージは答える。

「時は満ちたり」

いわゆる暗号である。


その言葉を聞いた男は後方に合図を送る。

そうすると、木箱を担いで数人の男が船に乗り込んで来た。


「約束の物だ」

「これらを間違いなく長州に届けてくれ」

素早く何度も往復し、荷物を積み終わると、そう言い残し早々と去って行った。


この武器を誰にも見られることなく、長州まで運ばなければならない。

そして長州では武器を売り、今度は薩摩にお米を積んで運ぶというルート…

幕府に見つかると、間違いなく捕らえられる…いや殺されるかも知れない。


ジョージは恐怖に怯えつつも、頼まれ事を放棄するわけにもいかず…

運を天に任せるかのように祈った。

米が採れる時期を調整し9月半ば過ぎ、五島列島から長州を目指した。


本来なら下関を通り、直接長州の中心、山口に向かうのだが

第一次長州征伐の影響で幕府の見張りが厳しい状況。


万一を考え、長州北部、旧藩庁があった萩の町で積み荷を渡すことになっている。

角島沖を大回りして通る事により幕府に見つかることなく、どうにか萩にたどり着いたジョージ達一行。

後は武器を売り、米を積んで薩摩に向かうだけである。


多少の安堵感を感じ先が見えてきたのだが…

その待ち合わせ場所に現れたのは、なんとあの龍馬だった!


なぜ幕府側の龍馬さんがここに?

サラとジョージは意味が分からなくなっていた…


長州は幕府の敵で、しかも現状は薩摩とも犬猿の仲である…

幕府側の龍馬が、武器を長州に渡し、米を敵国の薩摩に運ぶのか…

理解できるわけがなかった。


しかし、事の重大さは龍馬の表情から読みとめられる。

この前の大地のような優しい眼差しとはかけ離れ…

こちらを氷のような冷たく、鋭い視線で見つめている。


「んぜここにサラさんがいるがあ?」

「わしを見られたからにゃあ、帰すわけにはいかんぜよ」


そう…龍馬は幕府の敵国の長州を、仲の悪い薩摩と手を組ませ…

外国の言いなりの何も変わらぬ幕府を、倒そうという考えだったのである。


もし、龍馬の顔を知らない者であれば、他言無用の脅しだけで済んだのかも知れない。

しかし友とはいえ、自分の立場を理解している者にこの件を知られ…

そのまま生かして帰すわけにはいかなかったのである。


「サラさん、すまんのお~ 諦めちゃり」

そういうと龍馬は腰の刀をスラリと抜いた。


ジョージは慌てて手を振り、

龍馬にやめてくれの意思表示をしたが、切羽詰まっているのか言葉にならない。


「どうかお願いします!」

「絶対に他言しません。見逃して下さい。」

サラは懇願したが、物ともせず龍馬はサラたちとの距離を詰めていった。

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