第16話 サラの初料理

「もし急な用事がなかったら、明日もご飯を食べに来て下さい」

「サラちゃんも来てると思うし…」

「良かったら茶屋に来てくださいね」

そう言うと舞は顔を赤らめ、ササっと走り別れた。


「龍さんも隅におけないね~」

勝は雰囲気を察し、龍馬の肩を叩くと

「明日もサラちゃんに会いに行くかな…」

誤魔化すように呟いた。


翌日…サラの朝はいつもより早かった。

勝さんに別れ際、明日は内緒で良いとこに連れてくよと言われ、みんなでお弁当をと…

早起きしてせっせと作っていたのである。


日本の方の口に合えばいいなあ~…

サラは初めて作る料理に、淡い期待とみんなの笑顔を想い浮かべていた。


いつもの茶屋に行くと、ちょうど勝と龍馬が歩いて来るのが見えた。

「おはよう、早いねえ~ サラちゃん…」

勝は女の子を待たせた事を気遣い、申し訳なさそうに挨拶した。


「ううん、私も今着いたとこよ!」

「それより、ジャーン…見て! お弁当作って来たの」

サラは持ってきたお弁当を、持ち上げて見せた。


「ほう…これは旨そうだ!!」

「じゃあ今日は船ではなく、良いとこにご案内しよう」


と歩き出そうとした時、ふと勝は舞に目を向けた。

「あれ? 舞さん… 昨日までとまた雰囲気が違うねえ~」


舞は龍馬を意識してか、髪もいつも以上に整え、お気に入りのかんざし…

あのお気に入りの蓮の花の浴衣を帯を変えて着ていた。


「龍馬さんおはよう…」

目が合うとすぐにうつむく姿に、龍馬は優しく微笑むと手を差し伸べた。


「おはよう舞さん、ほな行くがや~」

天下の往来で手を繋ぐなど…

これも当時としては考えられない事だったが、勝や龍馬は全く気にしなかった。


長崎の港を見渡せる小高い場所にある公園…

樹齢数百年の大きな桜が数本、青々と葉を生い茂らせていた。

日陰は程よく風通しも良く、若干の潮の香りも運んできて心地よい。


「どうだい? いい場所だろう?」

勝は清々しい表情で聞いてきた。


「うん、そうね! ここならのんびりと出来そう…」

サラは備え付けのテーブルにお弁当を置くと、そのテーブルに合うよう作られた長椅子に腰かけた。


「そう言えばサラさん…その鳥って珍しい鳥だね~ なんていうの?」

勝もこの鳥が気になって仕方なかった。


「種類は私も分からないんだけど…すごく大事なお友達なの」

サラはきちんと言う事を聞いてくれるシグレに、寝るときに抱いているぬいぐるみのような愛着が沸いていた。


「名前はシグレ、たま~に気まぐれに喋る事もあるのよ!?」

サラは万が一を考え、保険をかけて言っておく事にした。


「へえ~ 喋る鳥なんているのかい… 世界は広いねえ~」

勝は多少驚いたが、色んな新しい発見があるこの時代、まああり得ない事ではないなと思い答えた。


(いや~ここまで滑舌な鳥はあり得ませんから~)


「坂を登って疲れたし、時間も良いころだからソロソロ飯にするかい?」


「うん!」

勝の提案に、サラは笑顔で答えた。


「シグレもおいでー」

と、サラはシグレを呼んだが、珍しく今日は降りてこなかった。


なぜか…

シグレはサラが料理を作る姿をずっと観察していたのである。


数々の辛い思いと、グラバー邸での贅沢な料理で、美味しい物に目が無い「超美食家」と成長したシグレ…

しかしサラの料理を作る姿に、ただならぬ不安を感じていたのである。


龍馬は玉子焼きを一口食べた瞬間…

「やばい!これは殺人級だ!!」 と感じ取った。


しかし…サラさんの目の前で吐き出すわけにはいかず…

残りを一口で口に詰めると、一気に汁物で流し込む作戦に出た!


それがトドメとなった…

洋風お味噌汁の具材はコーンとウインナーソーセージ…

それだと甘くなると思ったサラは、マスタードで辛味を足していたのである!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る