第15話 幕府の最新艦

カレーを食べ終えたサラたち4人は、勝の言う昔の長崎海軍伝習所跡地に向かった。

幕府が購入した最新艦が数隻停泊している…

大きさといい性能といい、現在日本にある戦艦とは桁違いの物だった。


龍馬は船に駆け上がり飛び乗ると、船の隅から隅までを見て回った。

「か~ たまらんぜよ!」


少年のように目を輝かせながら、水夫達に一つ一つ船の仕組みを聞いていた。

舞はその様子を遠くから眺めていた。

そしてそんな龍馬に、何か普通の人とは違ったものを感じていた。


一方で勝はサラを誘い一度船を降りると、こう問いかけて来た。

「お父さんの船は、一度にどれくらいの荷物が運べるのかな?」

「これからの予定は?」

これまでの旅の話を細部まで聞いてくるが、何一つ疑わないサラはこれまでの旅の事を話していった。


なぜ突然にこんな話をしてくるのか、サラには良くわからなかったが…

色々なお話しをしてくれて親身になってくれる勝を信用して、分かる範囲で答えていった。


一刻程過ぎただろうか?

勝とサラが航海の話で夢中になっているころ…


龍馬は水夫から色々な話を聞き終わり、甲板から沈みかけた夕日を見ながら物思いにふけっていた。

その目は静かに夕日を見つめ、紅く染まっている。


そんな龍馬の背中が寂しげに感じたのか、後ろからそっと舞が話しかけてきた。


「龍馬さんって…あんなに剣が強いのに、船の事を色々と熱心に聞いたりして本当に不思議な人ね」


しかし気づいてないかのように、何も話そうとしない龍馬…

舞は夢を見るような深く遠くを見つめる龍馬の目の中に、耐えようもない悲しさも潜んでいるように感じていた。


「なんか…すごく悲しい目をしてるのね…」

舞は思い切って聞いてみた。


龍馬はその質問にも答えることなく、沈んでゆく夕日を眺めている。

海に反射する光の帯が伸び、こちらに届こうとするとき、龍馬の口が開いた。


「俺にはやらねばならん事がある」

「しかしその犠牲が大きすぎた…」


赤く染まった海の光が、深く悲しみを背負った瞳の涙を隠すかのようにキラキラと輝かす。

舞はその思いを和らげるように、そっと歌った。


「あなたの目に映るのは…」

「遠い未来の約束?」

「観てるのは私ではなく、煌く水面に映る想い…」


舞は元気を出して欲しくて、心から声をあげた。

切なく自らの想いをのせた歌詞…

積年の想いを胸に秘める龍馬には、天女のように優しく聞こえる。


「いい歌じゃあ~ ありがとう舞さん」

「俺はまだ死ねんな…」

「いつか夢が叶ったら、またその歌を聴かせてくれるかい?」


「うん!」

舞は龍馬の裾をつかむと、見つめていた目を恥ずかしさのあまり下にそらした。


「約束だよ」

そう言って龍馬は舞の手をとると、その小指に優しくキスをした!


これはその時代の武士が絶対に許されないような行動であり、認められるものではなかったが…

龍馬の大地のように広い心からくる優しさと、繊細かつ大胆な心に惹かれ…

そう言った一連の行為も、舞にはとても心地よく感じた。


夕日が完全に海に沈もうとしていた時、ちょうど話を終えたサラと勝がひょっこり現れた。

実は、少し前に話は終わっていたのだが、舞と龍馬のようすをみて、話すに話しかけれなかったのである。


サラは龍馬の行動に動揺しつつも、偶然を装って話しかけた。

「あれ?舞ちゃん、こんなところにいたのね」

「時間も遅くなっちゃたし、ソロソロ戻ろうか?」


「あ…そうね…」

「まさかさっきの小指のキスのシーンを見られたんじゃ…」


舞も動揺を隠せなかったが、何事もなかったかのような態度を取った。

もちろんサラも見てはいたが、その事を悟られまいと舞に合わせる。

船を降りると、何事もなかったように別れを告げた。


「おいら達も失礼するよ」

そう言うと、勝は龍馬と共に宿へ戻ろうと体をひねった時…


「ちょっと待って…」

舞が声を発した。

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