第11話 約束
ふと気が付くといつの間にか、二人の周りには人だかりが出来ていた。
「ブラボー!」「最高~!」
演奏が終わると、英語や日本語まじりの喝采と割れんばかりの拍手が起こった。
2人は立ち上がると軽くお辞儀をした。
顔を見合わせると、照れくさそうにピアノを後にする…
「あ~びっくらした!」
庭に出た舞が口にした。
「本当に驚いたわね」
サラも紅潮した顔を冷やすように、手で仰ぎながら言った。
「でも舞さんって、歌が凄く上手いのね! 驚いちゃった…」
サラは西洋では聴いたことが無いような、甘~い舞の声に心奪われていた。
「ううん…サラさんの方がもっと上手かったわ! 私もまだまだって教えて貰った気がするもん…」
舞は初めて聴いた声に驚きと、すでに魅了されている心に気づき、サラを褒めた。
「私、小さい頃から音楽が大好きで、本当は歌手になりたかったの…」
「ピアノは一番最初は、母に教えて貰ったのよ!」
サラは母との思い出を思い浮かべながら舞に言った。
「そうなんだ…素敵な夢ね! 実は私も歌い人になりたいと思ってるの…」
「もしその夢が叶った時は、いつかサラさんも一緒に歌いましょうね!」
舞は優しく微笑むと、右手の小指をサラに伸ばした。
サラは意味が理解できず、キョトンとしてその様子を見ていると…
「日本では約束をする時はこうやるのよ!」
サラの右手の小指を伸ばすと、自分の小指を絡めた。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~~ます。 指切った」
舞は太鼓を叩くように音頭を取っていた手を離した。
「針千本(ハリセンボン)って何…?」
「角野卓造じゃねーよ!」
舞は近藤春菜のモノマネをしたが、サラが分かるわけがなかった…
(チーーーン)
「もし嘘をついたら、針を千本飲まないといけないって事で…」
「日本ではそれくらい、嘘をつく事が許されないって事なのよ」
スベった事に気が付いた舞は、恥ずかさを紛らわす様に言った。
「そうね…必ずいつか…」
サラはなぜ舞が恥ずかしそうにしているのか意味が分からなかったが…
真っすぐな瞳で見つめながら誓った。
2人はそれからも…夢中で音楽や子供の頃の話で時が経つのを忘れ話し込んだ。
いく時が経っただろうか…?
西の空が赤く焼け始めた頃、父たちが庭に出てきた。
取引が上手くいったようで、みなの顔が優しく緩んでいた。
「楽しそうな話をしているね!」
ジョージは2人の顔を見ると、安心したように言った。
「舞、そろそろおいとまするよ!」
勘兵衛も取引に満足したようで、ニコニコしながら言った。
「は~い、じゃあまたね、サラちゃん」
2人はちゃん付けで呼び合うようになっていた。
「うん、舞ちゃん! 帰りにも長崎に寄るからそれまで元気でね!」
サラはよほど楽しいひと時だったのか、心弾むような笑顔で別れを惜しむように言った。
「もちろんよ! あと…約束忘れたら怖いわよ~」
舞は目を髪で隠し、お化けのように「箕輪はるか」のモノマネをしたが…
誰一人笑わなかった…
いや…理解すらできなかった。
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