第9話 呉服問屋の娘、舞と再び

サラは戻ると父に今日の事を告げた。

父とても喜び、良い答えを期待しているとの事だった。


翌日、昨日行った…待ち合わせの茶見世に向かった。

「昼過ぎに来てって言ってたけど、ちょっと早かったかしら…」


まだ昼のピークが終わっておらず、沢山のお客様たちで賑わっている。

お店の娘たちも慌ただしそうに、サラの前を行ったり来たりしている。


「あれ? あれは舞さん…」

よく見るとその中の一人に、舞も混じっている事に気づいた。

舞はサラに気づくと…


「あれ、早かったのね…もうすぐ落ち着くから、あと少し待ってね!」

そう言うと、せわしそうに注文を取ったり、テーブルを拭いたりしている。


30分程すると昼時のお客さんも引き、こちらにやって来た。

「ゴメンね!お待たせ~」

「お隣同士で付き合い長いから、小さい頃から忙しい時間は手伝ってるのよ」


と言うと、舞は同じテーブルに座った。


「ここは昼と夜は食事も出しているから、その時間は凄く混んでるの…」

「ああ~お腹すいちゃった…サラさんも何か食べる?」


「じゃあ、私も舞さんと同じもの貰おうかな?」

「すみませ~ん、かしわゴボ天うどんを2つくださ~い」


「あいよ~」

奥から主人の元気の良い声が店内に響き渡る。


「うどんってどんな味がするんだろう…」

「食べた事ないから、ちょっとワクワクするわね」


「へえ~まだ食べてないんだ…」

「あっ! 知ってる? うどんも小麦で出来てるんだよ!」

「すっごく美味しいんだから…」


「ああ、そうだ! あと昨日の件…羊毛はうちで、小麦と砂糖はこの店で買っても良いんだって!」

「去年から台風が多くて、結構高騰してるらしいから、とりあえず値段を相談したいって…」


トントン拍子で決まりそうな話に気を良くしたサラ!

「あ…ありがとう、舞さん本当にありがとう!」

「早速父に知らせてくるわ!」

と急ぎ席を立とうとしたが…


「待って!! まだうどん来てない!!」

「凄く美味しいんだから食べて行って!」


「あ、ゴメンゴメン…」

サラが焦るのは本当に珍しい事だったが、照れ隠しするようにシグレに振った。

「シグレもうどん、食べたいわよね~??」


シグレは最近の数々の思いが蘇り、心の中で呟いた。

「じょ…冗談じゃねえ…俺を殺す気か!」


舞がいたから無駄に喋らなかったが…

「ピェ?」とだけ一鳴きして、横を向きながら心の中でそう呟く。


ここ一連のショックで、シグレは日本食が嫌いになりかけていた…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る