第4話 猛練習

ハッと冷静になったサラ…

しかし、時すでに遅かった。。

マリーは演奏をやめ、テーブルの上に置いたバックに手をかけると…


「コンクールは課題曲と、決勝の自由曲の2部構成よ!」

「はい、これが課題曲ね」


予備の楽譜を取り出すとテーブルの上に置いた。

「これは楽しみが増えて良かったわ~」

「フフフ…無理だと思うけど、楽しみねえ~~~オーホッホ・・・」


すごーーーく嫌な笑い方である。

「ま、頑張ってねえ~~…では、ごきげんよう…」

そう言い残すと、マリーは大広間の方に戻って行った。


あまりの突然の展開に、呆然と立ち尽くすサラ…

「く…悔しい!!」

「絶対に負けないんだから~」

目に火花をまき散らしたサラだが、テーブルの上にある楽譜を手に取ると驚愕した。


「ええーーーーー!! な…何、この曲…」

見て唖然としたサラ…


ビッシリと埋め尽くされた音符の嵐…

連弾(二人で弾く事)でも足りないんじゃないかと思えるような数である。


そう…聴き手にその人の腕がハッキリと分かる、誰もが敬遠する超難度曲「ラ・カンパネラ」である


「こんな難しい曲が課題曲だなんて…」

サラは悔しさのあまり、つい口にしてしまった事を後悔した…


「あの娘、知っててわざと私を誘ったんだわ…悔しい…」

その日から、サラの猛特訓が始まった。


父の会社も、重要な取引の通訳以外は殆ど休み、専属コーチも雇い猛練習をするサラ…

しかし、3か月を過ぎても、いまだにまともに弾く事すら出来ずにいた。

到底、タッチの練習をするレベルではない。


【1864年】、10月3日…

今日はサラの27歳の誕生日である。


「あと3か月ちょっとしかないのに…」

コーチが帰った後も、焦る気持ちを抑え、夜遅くまで練習に励んでいた。

これを見ていた父も最初は止めなかったが、誕生日と言う事もあり体を心配してサラに声をかけた。


「27歳の誕生日おめでとう、サラ…」

というと、テーブルにプレゼントの入った箱を置いた。


「根を詰めすぎるのは、体にも心にも毒だぞ」

「練習し続けるより、少し休憩した方が良い場合もあるんだ」


と体を気遣い声を掛けたが、全く聞く様子もなく演奏をやめなかった。

というより、後3か月ちょっとしかない時間に追われ、やめることが出来なかったのである。

サラは何かに取り憑かれた様に弾き続けている。


「サラ!! いい加減にしないか!!」

ボロボロにやつれても弾き続けるサラを見かねた父が、激しく怒鳴り…


『パシッ!!』

頬を叩いた。

愛する娘の体を気遣って優しく叩いたつもりだったが、現状のサラにそれを理解できる余裕は無かった…


「ひどい!こんなに頑張ってるのに…」

「お父様なんて大嫌い!!」

大粒の涙を隠すように手で顔を塞ぐと、サラはドアを乱暴に開け部屋を飛び出して行った…

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