第3話 貿易成立パーティー

それから幾年が過ぎ…

【1864年】、7月のある日…


サラは4ヵ国語を覚え大学院を主席で卒業後、父の貿易会社で通訳兼秘書として働いていた。

皆が振り返るほど美しく成長し、会社では憧れの的となっていた。


8歳の頃から習い始めたピアノも、専属のコーチをつけ猛練習し、

父の貿易成立パーティーなどではサラがピアノを弾き、パーティーに色を添えている。


今日も大きな取引が成功し、フランスのベルナール家を迎え、盛大なパーティーが行われていた。

子会社の役員の家族なども参加し、総勢300人を超える大きなパーティーである。


「相手方に紹介するからちょっと来なさい」

ちょうど一つの曲を弾き終わると、父のジョージが声をかけて来た。


会場の奥に進むと、いかにもと言った感じの身だしなみと雰囲気を持つ人の前に連れて行かれ…

父がさっそうと紹介に入る。


「こちらがわたくしの一人娘で、会社では通訳兼、秘書をしているサラでございます」

「サラでございます。宜しくお願い致します。」


サラは深々とお辞儀をし相手と握手を交わす。

が…これには相手が少し驚いた。

そう…握手をし両ほほにフレンチキスをすることはあっても、お辞儀は習慣がないからである。


「あ…私はライアン・ベルナールです。」

少しどまどった表情で挨拶を返すと…


相手の様子を見た父が言葉を発した。

「死んだ家内が日本人でして…今のお辞儀はその名残でございます」


というと、相手もハッとしてジョージを気遣う。

「それは申し訳ないことを言わせてしまいました。」

と言うと…


「サラさんは本当にお綺麗だ」

「これでは変な虫が付かないか、本当にご心配でしょうなあ~」

とほほ骨をあげ、柔らかな眼差しでジョージをみると、


「こちらはわたくしの長女で、マリーでございます、あなたも自己紹介なさい」

と、横に立つ、サラとちょうど同じくらいの歳の女性に声をかけた。


「ご紹介にあずかりました、マリーです。宜しくお願い致します。」

というと、マリーも気を使ったのか、深くお辞儀をした。


まるでフランス人形のような…

長くサラサラなブロンドヘアーに、青みがかったグリーンの瞳…

優雅なドレスが一層、その美しさを引き立てていた。


「あれ?どこかで見たことがあるような…」

サラは何で見たのか思い出せないが、確かに見たことがある人だった。


「これは美しい!」

「ベルナール様も、ご心配が絶えませんでしょうな…」

とジョージも先ほどのお返しとばかりにつづった。


「サラ、マリーさんも知らない大人ばかりで退屈であろう」

「ちょうど同じ歳くらいだし、庭とお屋敷を案内してあげなさい」


とジョージは長旅と退屈で不機嫌そうなマリーさんを気遣った。

「ではこちらへ…」

サラは手を一つの扉に向けると、会釈してマリーを誘った。


大広間を出ると、中庭が鑑賞出来るロビー、書斎などを紹介した。

しかし、長旅で疲れている様子なので、これ以上歩かせるのはと思い自分の部屋に招いた。


「ここがわたしの部屋よ」

サラは少し恥ずかしそうに、マリーさんに微笑んだ。

マリーはさっと見渡すと、一角にあるピアノに目をとめる。


「へえ~部屋にもピアノがあるのね!」

マリーはそっと椅子に座ると、鍵盤蓋を上げた。


「私の母が使ってたので、結構古いけど…」

サラがそこまで言うと、マリーは静かにピアノを弾き始めた。


優しく繊細なタッチから時には力強く、一音一音をしっかりと奏でている。

無駄な音がないと言うのだろうか…

全ての音に意味があり、それを表現しているかのようである。


「す…すごい!!」

サラはすでに自身の心が奪われている事に気が付くまで、そんなに時間はかからなかった。


それはそうである。

マリーはフランスのピアノコンテストで何度も優勝して、フランスでは知らない人がいないと言う実力者なのだ。


「あっ!だから見た事があると思ったんだ…」

ようやくサラが気づくと…


突然音を止め、さっきまでの優しそうな雰囲気とは違い、トゲトゲしくマリーは言った。

「サラさんもピアノ上手だし、良かったら半年後のコンテストに出場しない?」

「世界中から沢山のピアニストが集まって、優勝を決めるすごく大きな大会なのよ?」


「う~ん…でも、わたしはそんなに上手じゃないし…」

サラがそこまで言うと、マリーはニヤリと笑い…


「確かにさっきの腕じゃねえ…コンクールに出ても恥をかくだけかしら?」

明らかに挑発的で、意地悪な笑みを浮かべながら、見下した目でこちらを見ている。


「ええ…? なにこの人…?」

「ム…ムカつくーーー><」


とは思ったが、さすがに出場するとは言えず…サラがマゴマゴしていると…


「ま、ちょっと場違いな方をお誘いしたかしら?」

「ゴメンナサイねえ~」

と言うと、またピアノを奏で始めた。


その様子を眺め、悔しさを我慢できなかったサラはついに言ってしまった…

「いいわ! 私も出るわ!!」

「あなたなんかに、絶対に負けないんだからーーー!!」

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