第2話 桜の伝説

しかしその夜…

おかしな事に、また同じ夢を見る…


「この家を継ぐ者、サラ…年に1度、桜の花が咲いた日の丑三つ時に、あの丘の泉に立ち…」

「印章を手に桜の樹に祈りを捧げよ…」

「さすればその願い、叶えてくれる者に出会うであろう…」


「うわーーー」

驚いて跳ね起きたサラ…

そのせいか、この前のうろ覚えとは違い、かなり明確に夢を覚えていた。


「丑三つ時ってなんだろう?」

「印章って…?」


サラは急いで着替え、朝食を終わらせると、この家の書斎に向かった。

何かヒントになるような事はないかと、色々な本を手に取ってはめくっていた。


その時…この家の家系図を記した本に、この屋敷と付近の地図が描かれている絵に目がとまった。


この屋敷から見える丘の桜の奥には、森と小さな泉がある。

その泉には対岸から、泉の中央に伸びる、真っ白な橋と見晴らし台のようなものがある。

この絵には紋章なようなものと、願いの泉という名が記されていた。


「もしかして…」


とサラは思ったが、印章と丑三つ時の答えが分からない。

急いで執事室に行くと、ルームストロングに聞いてみた。


「ねえ、この家に印章って…あったりする?」


しかし…少しの間をおいて話し出したルームストロングの答えは、期待には反したものだった。


「印章ですか…う~~ん…聞いたことはありませんね…」

「この家の大切なものは全てこの本に記されてます…、が、その中に印章があるとは聞いた事もないですね…」


というと、書棚から1冊の本を選び、サラに見せた。

確かに、色々な壺や絵、像などはあるが、印章のようなものはない。


「夢の聞き間違いかな…」


サラはもう一つの事について聞く。

「丑三つ時ってなに?」


ルームストロングは聞きなれない言葉に戸惑いつつも…

「日本の言葉のようですね!奥様の残された、日本の書を見たら分かるんじゃないでしょうか?」

と、ルームストロングは書棚からもう1冊の本をサラに渡した。


「これと同じ柄の本が書斎にもございます、奥様が日本からお持ちになった書でございます」

「その中のどれかに書かれているかも知れません。」


そこまで聞くとサラは急いで書斎に行って調べた。

同じ柄の本を何冊もめくっては閉じ…何冊目だったろうか…

日本の時刻に関する本があった。


この本によると、2時間おきに十二支で数え…

その2時間を4で割って、一つ時~四つ時まで数えるらしい…

って事は…丑三つ時って…


「ええーーー?、午前2時~2時半の間って…」

「日本ってなんてアバウトな国なんでしょう」


目を輝かせながらサラは想像した。

この時代にはもう時計があり、ある程度の時刻は明確となっていた。

そんな中、30分単位で区切る日本の時刻がサラにとっては驚きであった。


そしてその日の夜、早速サラは泉に向かった。

午前2時、泉の中央で桜に向かって祈りを捧げた。


「その桜の精霊よ、どうか姿をお見せ下さい」


しかし…何一つ変わりなく、何かが起きそうな気配すらない…


「あなた…私がこんなに願いを込めてるのに…」

「いい加減にしないと呪っちゃうわよーーー」


666が書かれたヘアーバンドを身に着ける。

も…効果あるわけなく…

「はあ~…やっぱりただの言い伝えか…」

深く肩を落とし、サラは諦めモードで家に戻って行ったのであった。

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