第17話 女子高生の放課後

私と葵は放課後、いつも通り私の部屋に集まっていた。


部屋の中央におかれたテーブルの前で、二人横に並んでいる。


「すごい落ち着く。」


「葵は相変わらずね。」


私は今日もいつもと同様に葵に抱き付かれていた。


「1日に1回は凛ちゃんパワーを注入しないと、自分が変になってしまうの。」


「もう既に変だと思うけど……」


「どうして?」


「もう30分くらいはこの状態だよ。


いくらなんでもくっつきすぎ……」


「私をこんなにも落ち着かせる凛ちゃんが悪いんだよ。」


私は葵にずっと抱き付かれているために、身動きすることが全くできずにいた。


同じ体勢のままで時間だけが流れていく。


それでも私は全く退屈を感じていなかった。


むしろ心地良かったりもする……


「凛ちゃん……」


「どうしたの?」


「その……」


私は「うん。」と頷いた。


「ちょっとだけでいいから頭を撫でて……。」


「うん……」


私は葵の頭をゆっくりと撫でた。


「ちゃんとできてる?」と私は葵に尋ねた。


「うん。」


葵は私の体に顔を埋めていたので、彼女の表情を確認することができなかった。


これだけのことで葵は満足してくれているのかな?


私は頭を撫でる行為を止めなかった。


「どう?満足した?」


「すごく幸せ。」


二人きりでいるときの葵の発言は、いつだって私には照れくさすぎる。


「こんなので幸せになれるんだったら、いつだってしてあげるわよ。」


「贅沢すぎて死んじゃうよ。」


「おおげさ……」


「そんなことないよ。」


葵がゆっくりと私から離れた。


彼女がすごく照れていることが表情で分かる。


私は素直に葵が可愛いなと思った。


「私は凛ちゃんに物凄く感謝しているの……」


「どうして?」


「だって……」


「だって?」


「私の小説作りにこんなにも協力してくれているから。


普通はこんなに付き合ってくれないよ……」


「あの写真を消されるまでは協力するわよ。」


「凛ちゃんなら私を力づくで止めることもできたと思うけど?」


「力づくってどういうこと?」


「そりゃあ殴る蹴るとか?」


「私のことをなんだと思っているのよ……」


「えへへっ。それは冗談だよ。


でも仲良くなってくれたから嬉しいなって。」


「私だって嬉しかったりするんだからね。」


葵が「そうなの?」と尋ねた。


「うん。こんなこと言うのって恥ずかしいけど、葵と出会ってから退屈がなくなったんだよね。


だから前みたいに暇を持て余す自分には戻りたくないかな?」


「嬉しい!」


葵がそう言って私の体を強く押した。


「ちょっと……今わざと倒したでしょ。」


「凛ちゃんもわざと倒されたくせに。」


私はニヤニヤする葵に「ばかっ」と呟いた。


1回目のキスの後は少し沈黙が起こった。


そして2回目、3回目のキスを私は受け入れる。


葵は甘えてきたり攻めてきたりで、すごくわがままな女の子だ。


「凛ちゃんって私とキスしてるときはどんな気分なの?」


私は少し考えた。


今ってどんな気分なんだろう……


「急に言われても……」


「嫌じゃないの?」


「嫌ではないよ。」


「じゃあどんな気分なの?」


「友達以上恋人未満……」


「え?」と葵が口にした。


私はとてつもなく恥ずかしいことを言ってしまったような気がした。


葵が声に出して笑っている。


「今のって凛ちゃんの本音だよね?


友達以上恋人未満……」


葵は上機嫌になって笑っていた。


「恥ずかしくて死にそう……」


私は今すぐベッドに上がって、布団に包まろうかと思った。


「葵はどうなのよ。」


「私も凛ちゃんと一緒だよ。」


「え?」


「割と本気で恋愛ごっこを楽しんでいるよ。


女の子同士って悪くないよね。」


「ちょっ。本気で恥ずかしいから……」


「照れている凛ちゃんを見るとキスしたくなる。」


葵はそう言って私に何度もキスをした。


もうキスの回数を数えてられるほど私には余裕がなかった。


私は完全に葵のペースに翻弄されている。


頭の中がおかしくなってしまいそうだ。


もしかするともうおかしくなっているのかもだけど……


私達の放課後はいつもこんな感じだ。


そして私は完全に今の特別な女子高生生活を楽しんでいるのだった。

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