第16話 滝沢姉妹の奈桜と美桜

私は1限目の授業が始まるまでの間、スマホをいじって時間を潰していた。


すると今先ほどに登校してきたばっかの滝(たき)沢(ざわ)さんが声をかけてきた。


「おはよ、凛ちゃん!


わたし連休中に杉本さんを見たよ。」


「私は滝沢さんと会った記憶がないんだけど……」


「滝沢って呼ばれたら、私のことかのことか分からないよ。


私のことはって呼んでくれていいからね。」


この子は席が隣だからときどき私に絡んでくる。


「凛ちゃんと葵ちゃんって、とっても仲良しさんなんだね!」


「えっ。いつに私達のことを見かけたの?!」


さすがにイチャイチャしているところを見られていたらまずい……


「そのときって私達は何してたのかな?」


「えっとぉ……」


奈桜ちゃんは少し考え込んだ。


「ごめん!思い出せない!」


この子はいつもこんな感じだった……


「イルカショーのときだよ。


凛ちゃん達とは席がかなり離れてたんだけど、奈桜は目がとてもいいから。」


たきざわが奈桜の後ろの席から教えてくれた。


この二人は滝沢姉妹と呼ばれているが、実はただの幼馴染で血は全く繋がっていない。


見た目も性格も正反対だ。


奈桜はおっとりした性格で、けっこう天然が入っている。


顔立ちも性格が表われているのか、とても優しそうな顔立ちだ。


ミディアムヘアの髪はふわふわで、茶髪だが地毛らしい。


目も大きくて可愛らしいし、彼女のような人のことを癒し系と言うのかな?


美桜は奈桜と正反対で、とてもクールな性格だ。


もしかすると女子高で告白とかされるタイプなのかも。


女子高の王子様てきなやつだ。


髪型はショートでさっぱりとしていて、顔立ちもキリッとしている。


この2人はいつも一緒に行動をしていた。


どうやら親同士も幼馴染らしくて、物心ついたときには仲良く遊んでいたらしい。


しかも生まれた病院も生まれた日も同じだとか……


1秒の差で奈桜の方が早く生まれたらしい。


これは全て奈桜がクラスの自己紹介で言ってたことだ。


あのときの美桜の恥ずかしがりようは、今に思い出してもかなりウケる。


「ショーが終わった後に声をかけようとおもったんだけど、ショー終わりは皆が一斉に出て行くからね。


すぐに見失っちゃったよ。」


私達ってショーの最中は普通にしてたっけ?


キスとか……いや、してるわけないよね……


「でも凛ちゃんと葵ちゃんってあんなに仲が良かったんだね!」


私は「ははは。」と言ってごまかした。


いったいどんなところを見られたんだろうか……


「ああ!」と奈桜が急に叫んだ。


「どうしたの奈桜。」と美桜が不思議そうに聞く。


「どうしよう美桜……


今日の古典の小テスト、ぜんぜん勉強してないよー。」


「私が今から教えて上げるから大丈夫。


一緒に勉強しよ!」


奈桜が「ありがとう!」と言って美桜に抱き付く。


「ふふっ。」


美桜が奈桜に抱き付かれて上機嫌になっていた。


なんなんだこの姉妹は……


2人は古典の小テストの勉強を始めた。


「どうしよう奈桜……」と美桜が呟く。


奈桜が不思議そうに「どうしたの?」と尋ねた。


「古典は1限目だった……


もう授業まで時間ないよ……」


「ええー!もう私は補習決定だ……」


奈桜が涙目で補習の言葉を口にする。


「落ち着いて。古典は前に貰ったプリントと全く同じ問題が出るんだから、答えの記号だけを覚えたら大丈夫なんじゃない?」


「やっぱり凛ちゃんは天才だね!」


奈桜が「ウエオイアウオエウイ」と魔法の呪文を唱え続ける。


「普段から勉強をした方が効率的じゃない?」


私がそう言うと、美桜が私の言葉に同感して苦笑いした。


「2人とも私語は厳禁だよ!


答えの記号を忘れちゃうから!」


奈桜は古典の小テストが始まるまで、ひたすら「ウエオイアウオエウイ」と言い続けていたのだった。


とりあえずこの滝沢姉妹が愉快なクラスメイトであることは間違いがない。

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