第10話 目的地までの相合傘
私達は水族館に向かっていた。
「まさか水族館に行くまでに相合傘イベントが起こるなんて……」
葵のテンションは朝から最高潮だ。
「雨降ったらイルカショーなくなるんじゃない?
まだ小雨だし早く止んでくれるといいんだけど……」
「凛ちゃんが折り畳み傘を持っていてホント良かったね。
でもまだちょっと肩が濡れてるみたい。
もっとくっついていい?」
「無理。」
「うわっ!ひどいっ!」
「今でも充分にくっついてるでしょ……」
「ふふっ。ほんとだね。」
今日の葵はモノクロのチェック柄ブラウスに黒いプリーツスカートを合わせていた。
何かいつもと雰囲気が違って、不覚にもすごく可愛いと思ってしまった。
確かに外見だけなら葵はすごく可愛い。
でも少し変わっているのかな?
友達もいないし恋人ができたこともないらしいし……
「凛ちゃんどうしたの?」
「え?なにが?」
「なんか物凄く残念な目で私を見ているような気がしたから……」
「え?!嘘!?」
「ほんとだよ。」
私は物凄く顔に顔に出るタイプらしい。
「ま、嘘だけどね。」
私は傘を自分の方だけにさした。
「凛ちゃん!濡れちゃうから!」
私達はこんな感じで水族館を目指して歩いていたのだった。
「凛ちゃんは水族館でどのお魚が一番に好き?」
「魚か……イルカくらいしかパッとしたやついなくない?」
「そんなことないよ。
マグロとかサーモンとかはまちとか……」
「いまお寿司で好きなネタを言っただけでしょ。」
「あ……ばれた?」
「水族館行く前に言うことなのそれ……」
「ふふっ。冗談はさておき、私はペンギンが大好き。
見ただけで癒されるし……」
葵はペンギンのことを想像するだけで、本当に力の抜けた表情になっていた。
「ペンギンって魚じゃないじゃん……
さっき好きなお魚って言ったし。」
「細かいことはどうでもいいの。
あ!水族館が見えてきたよ!」
目の前には水族館らしき大きな建物があった。
「何度か来たことあるけれど、こんな建物だったっけ?」
葵が「え!?」と驚いて叫んだ。
「え、なになに。どうしたの?」
「私は初めてなのに凛ちゃんは初めてじゃないんだ……」
「なんかいやらしく聞こえるからやめて……」
「ま、私も来たことあるんだけどね。」
「あるんかい!」
駄目だ。最近、葵のボケのせいで自分のツッコミ力が上がっているような……
私ってこんなキャラだったっけ……
「凛ちゃん。」
「次はなによ……」
「もう雨やんでるよ!」
「え?」
私は傘をたたんだ。
確かに雨は止んでいる。
それどころか空は綺麗な青色だった。
「これでイルカショーが見れるね!」
葵の笑顔が眩しい。
こうして私達は水族館の入り口に向かった。
「葵……」
「どうしたの?」
「手を繋いでたら財布が取れないから。」
「仕方ないな……後でまた繋ぐからね。」
「はい、はい。」
「はい。は1回で充分だよ。」
なんかムカつく……
こうして私達の水族館デートが始まろうとしていたのだった……
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