第9話 付き合って3日目

改札を出ると葵が手を握ってきた。


「今日は凛ちゃんの家で何しよっかなぁ。」


葵がニヤニヤしてこちらを見てくる。


「ランキングの続きを見るんでしょ。」


「そうだったっけ?


てっきり昨日の続きかなって……」


「ばかっ。なに言ってんのよ……」


葵は恥じらう私を見て、とても嬉しそうにしている。


彼女はもしかすると、超がつくほどのドエスなのかもしれない。


「凛ちゃんは優しいよね。」


「急にどうしたのよ……」


「だって私なんかと付き合ってくれてるし。」


「あの写真を人質に取られてるんだから当然よ。」


「ふーん。そんなに見られたくないんだね。


凛ちゃんがヤンキーだった頃の写真。」


「だからヤンキーじゃないって!


あれはオシャレでやってるのよ。」


「確かに金髪だった頃の凛ちゃんも可愛いと思う。


今は可愛いと言うより綺麗だもんね。」


葵が私の体に抱き付いてきた。


「きゃ!ひ、人前だよ!」


「なんか勝手に体が動いたんだもん。」


「体は勝手に動かないわよ!」


私は葵の人間像がなかなか掴めない。


見た感じは真面目で大人しそうなんだけれど、実際はかなりお茶目だったりする。


私達は家に着くと、昨日と同じく机の前に並んで座った。


「どうして手を握ってるの……」


「別に普通だよ。


映画館とかでも恋人は映画見ながら手を繋ぐんでしょ?」


「今から映画でも見る気なの?」


「うん。とびっきり怖いの用意したんだ。」


私は「怖いのは嫌だ!」と叫んだ。


「え……凛ちゃんホラー苦手なの?」


私はコクリと頷いた。


すると葵が超絶にニヤニヤしてこちらを見てくる。


「何スマホ触ってるのよ……」


「メモアプリを起動してるの。」


「しょうもないことをメモしないで!」


「連休は心霊スポットに決まりだね!」


「絶対に行かないから。」


私達は脱線を何度も繰り返しながら、ようやく昼に見ていたランキングを全て見終えた。


まぁ話が逸れてしまったのは、全て葵のせいだったんだけれど……


「やっぱりデートは映画館とか水族館がベストなんだね。」


「2位だった水族館でいいんじゃない?」


葵が「そこは1位を選ぼうよ!」と言った。


「いや、1位は季節のイベントって書いてるじゃん。


5月のイベントって何かある?」


「ビビッド・シドニー」


「何それ?」


「オーストラリアのお祭り。」


「行けるか!」と私は叫んだ。


「ふふっ。凛ちゃんナイスツッコミ!」


「もう。あんまりからかわないでよ……」


「ごめんごめん。凛ちゃんの反応がおもしろいからつい……」


「もー。」


私の膨らんだ頬を葵が指で突っついた。


「ふふっ。私は水族館がいいな。


なんかロマンチックなイメージがあるもん。」


「最初からそう言いなさいよ……」


「水族館たのしみだなぁ。


手を繋ぎながらゆっくり回ろうね!」


「手はいつでも繋いでるし。」


私達は今だって恋人繋ぎをしているし。


「ちょっと暑いんだけれど……


一瞬だけ離していい?」


葵は「一瞬だけなら……」と寂しそうな顔をして言った。


私が葵の手を解くと、彼女はすぐに私の手を掴んだ。


「はい。お言葉通り一瞬だけね。」


「……」


私は葵に無言の圧力をかけた。


葵が「冗談だから。」と言って笑った。


そして葵がようやく私の手を離してくれた。


「葵はスキンシップが激しすぎるよ。


もしかして甘えたがりなの?」


私は子どもを見るような目で葵を見た。


すると葵が「うん!」と言って抱き付いてくる。


「ばか!何すんの!」


「恋人に甘えたいのは普通だもん。」


「せっかく少し涼しくなったのに。」


「抱き付かれるの嫌?」


「別に嫌じゃないけど……」


葵に抱き付かれるのは実際に嫌じゃなかった。


甘い匂いも柔らかい体も、どちらかと言えば好きだし……


それに抱き付かれて嬉しくなってる自分もいるような……


て、あれ?これって普通の感情なの?え?!


私は葵と付き合って三日目、もう既におかしくなってきているのかも……


それでも私は甘えてくる葵が可愛いから、彼女のわがままを全て許してしまいそうな気がする……

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