第8話 お弁当箱2つ

私と葵は学校の中庭にあるベンチに座っていた。


「はい、お弁当。」


私は葵にお弁当箱を渡した。


葵は「やった!」と叫んでお弁当箱を手に持った。


「開けても良い?」


「当たり前でしょ。


葵のために作ったんだから。」


「私のため?」


「そりゃそでしょ。」


「やばい……」


「どしたの?。」


「嬉しすぎて泣きそう……」


「大袈裟……」


「そんなことないもん。本当に嬉しい!」


葵は目をキラキラさせながらお弁当箱のふたを開けた。


「うわ!おししそう!」


葵は本当に嬉しそうだった。


「いただきます!ありがとうね、凛ちゃん!


恋人の手作りお弁当が食べれるなんてすごく幸せ。」


私の歴代の恋人のなかでも、葵は一番に優しくて可愛い恋人だ。


そして私はこれが恋愛ごっこだと分かってはいても、何だかただの遊びではないような気がしていた。


だって昨日のキスは……


私は今日の授業中だって、ずっと昨日のキスを思い出して恥ずかしくなっていた。


もしかして私、ときめいてる?


いやいや、相手は女の子なんだし。


そんなことないよね。うん……


「凛ちゃん、おかず交換しようよ!


はい、あーん。」


私は葵の差し出したミートボールを口にした。


「次は凛ちゃんの番だよ。」


私も自分のお弁当のミートボールを葵の口に入れた。


なんだこの初々しいカップル感は……


駄目だ。私はどうしてしまったんだろう


不覚にも幸福感を抱いている自分がいる……


「そういえば昨日はけっきょく行く場所が決まらなかったね。」


「いちおう夜に色々と調べといたよ。」


私は昨夜、心を落ち着かせるためにずっとスマホを触っていた。


「おもしろいサイト見つけたんだ。」


私はそう言ってスマホを取り出した。


「見て見て。彼女が喜ぶデートプランのランキングトップ10!だって。」


「1位はなんなだったの?」


せわしないなぁ。ちゃんと10位から見ていくの。」


私はまだこのサイトの中身を見ていなかった。


眠かったのもあるけれど、葵と2人で見た方がおもしろいかなって思ったから。


「とりあえず10位ね。ええっと10位は日帰り旅行だって。


初デートで日帰り旅行はちょっとね……」


「そうかな?温泉でゆっくりするのとかいいかも!」


温泉でゆっくりって……


私は昨日のキスを思い出して、いかがわしいことを考えてしまった。


「凛ちゃんエッチなこと考えてるでしょ。」


「え?!そ、そんなことないし!」


「絶対に嘘。」


「うるさい!次にいくよ!9位は動物園だって!」


「動物園か。私は学校の遠足でしか行ったことないかも。」


「そうなの?確かに動物園は初デートに良いのかも。


会話にも困らないし、出費もそんなにかからないし。」


「ふーん。でも可愛い動物を見て癒されるのは良いかも!


モフモフの動物に抱きつけたりするのかな?」


「葵ってそんなキャラだったっけ?」


「可愛いものは好きだよ。女の子だもん。」


葵がツンとして言った。


「私は葵ちゃんの部屋で1日デートでもいいけどね。」


「そ、それは……」


私はまた昨日のキスを思い出した。


「まぁ家ならいつでも行けるもんね。


なんだったら今日だって行けるし。」


「え?今日も来るの?」


「何だったら遊びに行こうかな。


どうせ暇だし。駄目?」


また昨日みたいにキスされるのかな?


さすがに恥ずかしいんだけれど……


「凛ちゃん?」


「待って。心の準備が……」


「え?」と葵が不思議そうに私を見た。


そして何かを察したのかニヤニヤが止まらない様子。


「今日は凛ちゃんの家に遊びに行く!


待ってはなしだからね。」


「今日もでしょ……」


葵は見かけによらずドエスなところがある。


今だってそうだ。私の反応を楽しんでいるのだろう。


「ランキングの続きは凛ちゃんの家で見よっか!


そろそろチャイム鳴る時間だし。」


「そうだね。」


私はまた昨日みたいにキスされるのかな。


やっぱり恥ずかしいんだよね……


駄目だ。変に頭がグルグル回る。


昼の授業はまともに受けられそうにないかも……

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