第6話 お昼休みの間接キス

教室に入ってしまうと、私と葵は余り話すことがなかった。


席も真逆だったし、授業と授業の間にある休み時間のときも、葵はずっと読書しているから会話するタイミングもなかった。


だから私は10分間の休憩時間を、スマホだけで過ごしていた。


そして午前中の授業が全て終わると、私はぼっち飯のために食堂に向かった。


食堂はフリースペースなので、別に持ち込みでも席を貸してもらえる。


それにここの食堂には、ぼっちのためのカウンター席があった。


ここのカウンター席ならば、私はゆうにぼっち飯を堪能することができる。


教室の席でぼっち飯だけは絶対にごめんだ。


私はカウンター席のすみっこ側に座って、持参したお弁当を開けた。


そして私がお弁当のおかずをはしで突っついていると、後ろから葵に名前を呼ばれた。


「凛ちゃん!恋人を置いていくなんてひどいよ。」


「あっごめん……」


葵はお盆にどんぶりばちを乗せていた。


「隣に座るね。」


「どうぞ。」


「いつも食堂にいるの知ってたんだよ。


テーブル席からいつも見てたの。」


「え、マジで?


てか葵は1人でテーブル席を使ってるの?」


「そうだよ。


6人掛けを1人で。贅沢でしょ。」


「どちらかと言うと迷惑じゃない?」


「ふふっ。確かにそうかも。」


葵は唐揚げ丼?を食べていた。


チリソースとマヨネーズが絶妙に絡まっていておいしそう。


「もしかして欲しいの?」


「え?」


「凛ちゃんさっきからずっと唐揚げ見てたし。」


「べ、別に欲しくないし。


なに食べているのか気になっただけ。」


「ふーん。凛ちゃんに唐揚げ1個あげるよ。


はい。あーん……」


葵が唐揚げをはさんだ箸を、私の口元まで近づけてきた。


「早く食べてよ。唐揚げ落としちゃう。」


私はパクッと唐揚げをたいらげた。


当たり前だが唐揚げはおいしかった。


「ありがと……」


「間接キスなら学校でもできるね。」


間接キス?!確かに今のはそうかもだけど……


「か、間接キスだなんて……子どもじゃないんだから……」


「私はどうせお子ちゃまだよ。」と葵がムッとして言った。


「はい。私もお弁当の玉子焼きあげる。」


私は玉子焼きを箸で掴んで、葵の口元に近づけた。


葵が玉子焼きを食べて「おいしい」と顔を輝かせた。


「すごくおいしいよ!


凛ちゃんって料理が上手なんだね!」


「一人暮らしするまでは全然だったよ。


一人暮らしを始めてから、物凄く練習したから。」


「凛ちゃんの手料理が毎日食べられたら幸せだなぁ。」


「なら毎日つくるよ。」


葵が「え?」と驚いた顔をして言った。


「別にいいよ。


自分のお弁当を作るついでだし。」


「やった!」


葵が満面の笑みで喜んでいる。


「そんなに嬉しいの?」


「うん!だって恋人があいさい弁当を作ってくれるんだよ?


物凄く嬉しい。」


愛妻弁当……


私はそんなこと全く考えていなかったから、何だか恥ずかしくなってしまった。


「まるで夫婦だね。」


「カップルだし。


まだ夫婦じゃないし。」


「え?まだって言った?」


「うるさい……」


葵がニヤニヤしていたずらな目で私を見てくる。


あー!もう本当に調子が狂うな……


いくら恋愛ごっことはいえ、葵との会話は何だかくすぐったくなる。


こうしてお昼時はにぎやかに過ぎていった。


「凛ちゃん、ゴールデンウィークって予定あいてる?」


「え?空いているけれど?」


「だったら私とデートしようよ!」


デート……


確かに私達は恋人同士だからデートはするよね。


でもデートっていったい何をするの……


私は色々なことを想像して、頭をふっとうさせてしまった。


「凛ちゃんいやらしいこと考えてたでしょ……」


「そ、そんなことないし!」


「動揺して噛んでるじゃん。」


「か、噛んでないし!」


「噛んでるよ。」と言って葵は笑った。


「今日の放課後は暇?


一緒に行く場所を決めようよ!」


私は「うん。」と返事した。


葵との初デート……


お遊びだと分かっていても、何か変に意識しちゃうな。


私はこうして楽しいお昼休みを過ごしたのだった。

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